ペンギンのような君に恋をしてしまった僕

 飯島さんとの日常は本当に楽しいものだった。

 朝、僕が電車登校になったことにより、彼女と一緒にいる時間がさらに増えた。

 飯島さんはこの駅の終点に家があるらしく、そこから学校最寄りの駅まで電車に揺られるらしい。

『あとひと駅!』

 と書かれたメッセージが絵文字付きで送られてきた。

 文面から見ても、楽しそうだと思う。

 僕はそれを合図に椅子から立ち上がる。

『了解』

 と送って、電車を待っているとアナウンスがなって数分後に電車が到着した。

「不知君。おはよう」

「おはよう。飯島さん」

 挨拶を交わしたあと、僕は飯島さんの隣に座る。

 告白するまではこの距離にドキマギしていたが、今はそれがこの距離でいられることに喜びを覚える。

「……ねぇ、不知君」

「ん? どうかした?」

 やけに弱々しい声だったため心配になる。

「私たちって、付き合っているんだよね……」

「そうだよ。どうしたの? 急に」

 顔を赤らめた飯島さんは、

「ううん。聞きたかっただけ。……えいっ。……大好き」

 そう言って、手を握ってきた。

 突然の出来事に脳が混乱を起こす。

 まず、感じたのは体温。

 自分だけじゃない、誰かの温かみが心地よい幸福感を与えてくれる。

 そして、肌の柔らかさ。

 僕の手みたいにゴツゴツした手じゃなくて、柔らかくてスベスベな肌。

 最後に緊張。

 飯島さんはものすごく緊張したに違いない。

 僕は、驚きはしたが優しく指を絡めた。

 僕の右手と飯島さんの左手はお互いを強く思うように握りあって、離さない。

 会話こそなかったものの、赤らんでやまない僕らの顔を見れば、幸福であることが分かる。

 僕らは結局、電車を降りるまで握った手を離すことはなかった。

 学校に二人で向かう。

 恋人なら当たり前の事が本当に嬉しかった。

 初めは他人の目を気にしすぎる僕が怯えて数歩後ろにいったり、前にいったりしていたが、飯島さんの、

「大丈夫だよ。なにもないから」

 という言葉を聞いて、安心した。

 そして、いつの間にか隣で歩くようになり、雑談を交えることも少し出来るようになった。

 教室に着くと、他クラスの男の子が集まっていた。

「あっ、飯島! お前、不知と付き合ったって本当か?」

 一人の男の子が飯島さんに詰め寄った。

「あー、うん、そうだよー。不知君と付き合ってるよー」

「お前が……」

 その男の子が僕を見て納得のいかない顔をする。

「おい、その辺にしとけ……」

「そ、そうだな」

 今にもなにかを言いたげだった男の子は別の男の子に止められて、教室から出ていった。

 なにがしたかったんだろ。

「不知君、ごめんね……。なんか変な事に巻き込んじゃって」

「ううん。大丈夫だから。まぁ、納得いかないのは分かるよ」

 そりゃ、僕のような暗くて地味な顔の人間よりさっきの男の子みたいな見てくれがよくて明るい人の方が飯島さんに似合っているのは分かる。

 飯島さんは、本来なら、僕じゃなくて彼のような男の子と付き合うべきなのだろう。

 でも、僕の事を好きになってくれた。

 その事実が嬉しくてたまらない。

「でも、僕は飯島さんの事を誰よりも好きだからね」

 学校でこんな事を言うなんて、僕らしくない。

 飯島さんは現に顔を真っ赤にしている。

「不知……君、あんまり、学校では、そういうこと、言わないで」

「あぁ、ごめん。やっぱり、そうだよね。TPOが大事だよね」

「まぁ、それもそうなんだけど、その……嬉しくてどうにかなっちゃいそうだから」

 今度は、僕が顔を真っ赤にする番だった。

 なにそれ、飯島さん。

 かっ、可愛い。

「そ、そうだね。気を付けるよ」

 僕らは謎の沈黙を守りながら自席へ座る。

「おっ、やってるやってる」

 その声にドアの方を見る。

 そこには、ニヤニヤ顔の輝がいた。

 うわぁ、面倒な事になったよ……。