「お疲れさまー! すっごく楽しかったー!」

「お疲れ。本当にありがとうね」

「うんっ。……あー、でも本当によかった。ちゃんと物語を綺麗に終わらせることが出来て……そういう物語に対してちゃんと向き合える所、本当に好きだな……あっ」

 飯島さんの言葉に空気と僕の思考が固まった。

 まだ、わずかに動く思考を巡らせて考える。


 飯島さんは、今なんて言った?


『好き』と言った。


 聞き間違いか?

「あのね、不知くん」

「はいっ!?」

「隠すつもりはなかったの。ちゃんと伝えるね」

 飯島さんは、夕日に照らされているからか、それとも、これから僕にあることを伝えるからか、頬が赤く染まっていた。

「私は、不知くんの事が好きです」
 


『好きです』と飯島さんが放った言葉が僕に優しく突き刺さる。

「だから」

「付き合ってください」

 本当に、なんで、だろうね。

 本来なら、僕が言うセリフなのに、飯島さんに言われてしまうのは。

 こんなの、嬉しいに決まっている。

 答えはひとつしかないなんて、考える暇もなく、答えた。

「飯島さん」


「僕も、好きです」


「こちらこそ、よろしくお願いします」

 差し出した右手を飯島さんは、小さな左手で優しく包み込んでくれる。

 この瞬間を待っていたのかもしれない。

 僕は、本当にこの手を握っている時間が幸せだった。

「ふ、不知くん! 手、握りすぎ!」

「ご、ごめん!」

 いつも通りの飯島さんとのやり取りが出来てホッとする。

 そして、僕を支配していた恋心は、消え去らずに形を変えて、幸福感を全身に送り出していた。

 僕らの作った小説では、ここで終わった。

 けれど、僕らの物語は、ここから始まる。

 飯島さんとの素敵な時間が。