図書室に人が居なくてよかったと思う。

 そもそも、僕が図書室で告白なんて大胆な事をしようとする人間だとは、飯島さんと関わる前の僕なら絶対に思わないだろう。

 約一ヶ月ほど、休みで来なかっただけなのに、懐かしいと感じるのはきっと夏休みが充実したからだろう。

 飯島さんと過ごしたこの夏は、きっと僕の人生の中で一番の思い出になるに違いない。

 飯島さんに出会って、変えられた。

 共に過ごした時間が一番長い場所で、告白。

 きっと、最高のシチュエーションだと自負できる。

 でも、今はやることは違う。

 僕らは、意外にも苦戦をしていた。

「んー……。難しいね。言葉をひねりだすって大変」

 改めて、小説家のすごさが分かる。

 言葉をだすのにこんなに苦戦をしている。

「ここって、主人公がヒロインによって自身を変えられた事を振り返るシーンでしょ? 不知くんはなにかそういう出来事ってあったの?」

「うーん……。えっとね、輝と出会って変えられた事かな。きっと、輝が居なきゃ、今頃こうして飯島さんとまともに話せてないかも」

 僕は、輝との出会いを手短に話す。

「へぇ、心崎(しんざき)くんと不知くんにそんな出来事があったんだ。それでメイメイと付き合ったんだね」

「うん。輝も言ってたけどあのまま成長しなくてよかったって。本当に輝に出会って友達の大切さが分かったよ」

「その心構えはいいよねっ! だって〝自分〟を変えてくれた人が居るって凄いことじゃない?」

「だよね。僕もそう思う」

 その話をすると、少し筆が進んだ。

 僕らの気分は合作(がっさく)をしている作家だ。

「ここの文章だけど、変えた方いいかな?」

「んー? どれ? 【出会わなきゃ、変われなかった】ね。うーん、主人公の目線だから、それでもいいと思うんだけど、ちょっと変えてヒロインのセリフに出来ない?」

 例えばと、飯島さんは間を挟んで、

「【動かなきゃ、変えれなかった】とか……? どう?」

「いいんじゃない?」

 なるほど。別に主人公だけのセリフじゃなくてよかったんだ。

 それからも、僕らは順調に言葉を紡いでいく。

 飯島さんと一緒に物語を(つく)っていることが楽しくて。

 つい、告白や苦しい好意を忘れてしまうほど、僕は夢中で執筆をしていた。

 いったいどれほど、執筆をしていただろうか。

 いよいよ、起承転結の「結」まで僕らは執筆していた。

「……どうやって、告白させよう……」

 やはり、現実の僕も、小説の中での僕も、告白だけは出来ないようだ。

「〝付き合ってください〟で、大丈夫だと思うよ?」

「なんか、それじゃあ、面白味がないじゃん」

「それもそうだね。あ、いいこと考えた! そこって、二人きりの放課後の教室なんでしょ?」

 飯島さんが、僕のスマホをかっさらい、なにかをそこに打ち込んだ。

【彼女は、一枚のルーズリーフを取り出して、紙に何かを書き始めた。ペンギンのマークが入った幼い紙に書かれていたのは、『私と付き合ってください』と丁寧な文字で書かれていた。】

「これでどうかな? 私が憧れるシュチュエーションだよ!」

「おー! いいと思うよ!」

「後は……」

 僕らは、それからも和気あいあいとしながら、執筆を続け、書き終えたのは、17時が過ぎようとした頃だった。