数時間が経過し、僕らは下校する。

 この学校の図書委員の仕事は主に図書室の鍵閉めと、返却図書を本棚に戻す作業だけだ。

 今日は僕ら二人とも図書委員の仕事の日ではないのでそそくさと図書室を出る。

「本、面白かったー! それにしても明日は土曜日だね。あ、そういや不知くんは休みの日なにしてるの?」

「僕は基本的に本を読むか、カフェに行って小説を書いているね。基本それしかやってないかな」

「小説書いてるんだ! すごい!」

「別に凄くないよ。今時ネットで小説なんていくらでも書けるよ」

「私が褒めているのは、その行動をするって事が凄いってことなの。ゼロからイチを生み出せる人を私は尊敬するんだ」

「まぁ、ありがとう」

 今まで誰にも小説を書いているなんて言ってこなかったし、褒められるのは普通に嬉しかった。

 心の中のもう一人の僕の口角が少しだけ上がった。

 こうやって僕はもう一人の自分を想像する事によって、なにかあった時に冷静に対処できるようにしている。

 だけど、今の所、別に高校特有の陰湿なイジメが起こった訳でもないし、トラブルに巻き込まれた事もない。

 だけど、常に意識しておかないと大事に至った時に冷静になれないので常日頃意識している。

 これは自分の人生のルール、いわゆる社会性というやつだ。

「もう駅に着いちゃったね。じゃあね!」

 飯島さんの言葉に僕は小さく手を振る。

 彼女は僕とは反対側のホームに走り去った。

 僕はタイミング良く来た電車に乗り、乗り換えてから、終点駅にある我が家へと帰っていった。