家に帰ってから、暫く長瀬から貰ったチケットを見つめていた。

 どうやって、飯島さんに渡そう……。

 そんな事を考えていたのだ。

 普通に話せるくらいには恋心を意識せずとも出来るようになったが、やはり、物を渡す──しかも水族館のチケットとなると、デートと捉えられてもおかしくない。

「蒼ー! 美味しいショートケーキあるんだけどー……なに隠してんの」

 突然アカ姉が部屋に入ってきた事によって、混乱してとっさに枕の下にチケットを隠してしまった。

 それをバッチリ見ていたアカ姉は僕の心情なんてお構いなしにこちらに近寄ってくる。

 僕はたぶん、人生最大の危機を感じているだろう。

 弟が姉が入った瞬間、何かを隠したとなればいかがわしい事をしているに違いないと思ってしまうのは山々だ。

 僕もアカ姉の立場ならそう思う。

 詰んだと察した僕は、正直にチケットを見せた。

「なにこれ? ……あぁ、近所の水族館のチケット。もしかして彼女出来た?!」

 アカ姉は、特段嬉しそうな表情で聞く。

「違う違う彼女居ないよ」

「じゃあ、好きな子?」

「……」

「バレバレかよ……」

 アカ姉はあちゃあと残念な人間を見る顔をして、僕をジト目で見た。

 え? なんかしました?

「その子に好きってばれてるんじゃない?」

 いやいやそんなわけない。

「そんなわけないでしょ……」

「んー、女の私から見ても蒼が顔に出やすいの知ってるからバレバレだけどなぁ」

 もしそうだったら大問題だ。

「まぁ、いいわ。蒼はその子のどこが好きになった?」

「どこって……」

 どこを好きなんだろう。

 顔が可愛いから? あどけない顔がタイプだから? 優しいから? どれも違う気がする。

 数分考えると、答えはでた。

 図書室での日常が頭に思い浮かんだ。

「……一緒にいて楽しいから……」

「ほーう」

 僕は、図書室で飯島さんと一緒に小説を読んでいる時間がたしかに楽しかった。

「……なら」

 アカ姉は、一度溜めてから僕の目をしっかりと見る。

 よく似ていると言われる優しい目元が穏やかで真剣なものに変わる。

「ちゃんとその子に伝えなきゃね。蒼の一番の想いを。今臆病になっているのは分かる。私も怖かったよ。でも、私の弟ならきっと出来る。当たって砕けろ!」

 アカ姉の僕を応援してくれている想いの強さに感動した。

 本当にこの人は欲しいときに欲しい言葉をくれる最高の姉だ。

「ありがとう」

 僕は自然に笑えた。

 アカ姉もつられて素敵な笑顔になる。

 アカ姉に貰った勇気が、僕の心を作っていく。

 飯島さんとの関係を思い出ではなく、未来に繋げるための覚悟が出来た。

 僕は、明日。

 飯島さんに告白しよう。