朝、目覚まし時計が鳴る前に起きたのには、理由がある。
ドタドタと誰かが階段を駆け降りる音に目が覚めたのだ。
僕は、リビングへ向かうと、そこには誰が見ても急いでいるアカ姉がいた。
深夜に帰ってきて少し仮眠をとろうとしたら思いっきり寝てしまったらしく、今からバイトへ行くところだったらしい。
「おはよう」
「おはよ、私、バイトいくから。朝ご飯もう作ってあるからね。じゃ」
「いってらっしゃい」
アカ姉を見送り、僕は彼女が置いていった朝ご飯を食べる。
カリカリに焼かれたベーコンは噛めば噛むほど味が出て、ご飯が進む。
トロトロで柔らかすぎず絶妙な固さに焼かれた目玉焼きは朝ご飯の定番。
そして、最強の料理。
わかめの味噌汁は、インスタントながらも、味が本格的で、わかめの少し固めの食感が僕には好みだ。
朝ご飯を食べ、歯を磨き、身支度を終えてから、まずは駅まで歩く。
普段は自転車登校だが、今日は電車で登校する。
今日は新黄駅にある本屋に行ってみたかったのだ。
ガタンゴトンと電車に揺られ、一度乗り換えてから、学校最寄りの駅まで揺られる。
自転車登校では味わえない電車内での読書時間。
二重人格のヒロインに恋をした主人公の恋愛小説を読んでいる。
学校最寄りの駅まであと二駅という所で、僕に声がかかった。
「おはよっ! 不知くんっ!」
見上げると、飯島さんがいた。
「おはよう」
「昨日ぶりだねー! なに読んでるのー?」
「『三人の距離は限りないゼロ』って小説」
「なにそれ? 三角関係の恋愛小説?」
「ヒロインが二重人格」
「なるほどねー……。初めて知ったよ……」
熱いと言いながら、飯島さんはタオルで汗を拭き、隣に座った。
距離が近くなって、思わず距離を少しとる。
「走ってきたの?」
「うん。遅刻しそうだったからね」
会話はそれきりでとまり、電車内は再び静まり返る。
ドクンドクンと胸の高鳴りは止まないが、それでも普通に話せていた自分を褒めてやりたい。
電車から、降りて、最寄り駅から学校まで向かう。
夏休み明けだからか、皆浮かれていた。
飯島さんは校門を潜るやいなや、沢山の人に声をかけている。
「おはよーございます!」
「結菜ちゃん、おはよー! なにその子? 彼氏?」
「違いますよー、友達ですって」
まぁ、そうだとは思っていた。
僕は二人の先輩にペコリと頭をさげ、会釈をする。
恋心は、本当に面倒だ。
「おっはよー!」
「うわっ」「わっ!」
後ろから誰かに抱きつかれる。
抱きつかr……えぇ?!
僕が驚いたのは、その相手が坂本さんだったからじゃない。
距離がほとんどゼロになっていた。
飯島さんとの距離はほとんどゼロ。
お互いの呼吸が聞こえそうなほどの距離だ。
そして、僕の腕に当たる飯島さんの小さな膨らみ。
そういう描写があるライトノベルや小説には柔らかさのみが描写されていたが、違った。
制服のツルツルとした生地に少し固い肌触りがあり、それがブラだと気が付く。
「不知、結菜おはよー!」
「ちょっと、桜ちゃん離してよー」
「なんでなん? ……ぁ。ごめっ!」
坂本さんは、察したらしいすぐに腕を話してくれた。
「不知……くん、その、気付いた?」
「は、はい……」
なぜか僕は敬語になってしまった。
「ほんとえっちだね……」
飯島さん、もうちょっと声量抑えてくれない?
周りに聞こえるから。
「これ、僕が悪いの……?」
「あぁん? あんた、結菜に手ぇだそうと考えてるんちゃうやろうな?」
理不尽だ。
ていうか、坂本さんのテンションが輝と似すぎてて逆に怖いよ。
「あ、生指の先生。じゃあねー!」
坂本さんは、そのまま、走って廊下に消えていった。
生指──生活指導のことだが、その指導長にあたる先生はラグビー部の顧問で化学の教師らしく授業も常に重たい空気をまとっているらしい。
「おい、心崎ィ! 髪染めんなァ!」
「あ、さーせん。また戻してきますね」
あれ、この声に聞き覚えがありありなんだけど。
僕らが後ろを振り返ると、
「さーせん」
とヘラヘラした口調で平謝りしている輝の姿が。
「お前なぁ……」
輝は、何度かペコペコした後、そのまま坂本さん同様、走って廊下へ消えていった。
坂本さんと違う点は、かなり本気で走っていたことだ。
輝が化学が苦手なのは、この先生のせいでもあるのでは?
「なんか、朝からインパクトが凄かったね……」
「うん……」
僕らは、教室に向かって、歩き出す。
すると、
「結菜ちゃん、蒼君、おはよう!」
後ろから聞こえた女の子の声に振り向く。
そこには、神田さんがにこりと微笑みながら、歩いていた。
「おはよっ! 陽菜ちゃんっ!」
「おはよう」
神田さんは飯島さんの隣に移動し、三人で廊下を歩く。
「夏休み楽しかったねー!」
「ねっ! 来年もまた遊びたいね」
僕らが歩いている途中、神田さんは、クラスメイトらしき男の子に話しかけられ、自信の教室に向かっていった。
そして、教室に着き、自室に座る。
飯島さんは、何人かのクラスメイトと話していた。
小説を読もうかと、さっき駅で読んでいた小説を開く。
この小説はただ甘いだけの恋愛小説じゃなく、苦悩や恋をした人だけが分かる痛みが丁寧に描写されているため、僕は結構好きだ。
「蒼ー! いるかー?」
数分読書に時間をかけていると、声をかけられた。
見上げると、輝がいて、クラスメイトに笑顔で話しかけている。
さすがは、2ーCの人気者だ。
「輝! アオイって誰?」
「あー、わりぃ、不知知らね?」
ハイテンションで輝と話していた女の子は僕の名前を聞くと、声音を一段階落とした。
「えー……、えーと、不知って、あの子? あのおとなしい子」
「おうそうそう、おーい! 蒼ー!」
「なに?」
僕は普通に言ったつもりだが、場の空気の温度が少し冷めたのが分かった。
輝は、それを異ともせず、こちらによってきた。
その途中で、
「おっ、飯島。おっはよー!」
「心崎くんおはよー!」
軽く挨拶を交わしながら、飯島さんと共にこちらに向かってきた。
「で、相談ってなんだ?」
ここで聞くなよと言ってやりたいが、当の本人は蒼に悩みなんて無さそうだけどなと笑っている。
今までは無かったよ。
というか、言えるわけないでしょ。悩みの種が居るんだから。
「あー……。ここで言うのはちょっと……」
「あ、わりぃ、本気だったか。じゃあ、また改めるわ」
輝は、じゃあなと言って僕のクラスメイトの女の子達と廊下へ出ていった。
「不知くん、なにか悩みがあるの?」
──好きな人がいるんだ。
なんて、言えるわけがない。
しかも、それを本人に。
「……不知くんがこうやって聞いて、話さないのは私知ってるよ」
薄紅色の唇は、「君のことは理解している」と言いたげに、艶っぽく動く。
「だから、本当に話したいとき言ってね」
飯島さんは、僕を心配そうに見る。
「うん。ありがとう。本当に大丈夫なんだ」
どうしようもなく、心を動かされる。
でも、まだ想いを伝えてはいけないと本能か直感が訴えてくる。
そして、同時にまた気が付く。
僕は、飯島さんの事が好きなんだと。
ドタドタと誰かが階段を駆け降りる音に目が覚めたのだ。
僕は、リビングへ向かうと、そこには誰が見ても急いでいるアカ姉がいた。
深夜に帰ってきて少し仮眠をとろうとしたら思いっきり寝てしまったらしく、今からバイトへ行くところだったらしい。
「おはよう」
「おはよ、私、バイトいくから。朝ご飯もう作ってあるからね。じゃ」
「いってらっしゃい」
アカ姉を見送り、僕は彼女が置いていった朝ご飯を食べる。
カリカリに焼かれたベーコンは噛めば噛むほど味が出て、ご飯が進む。
トロトロで柔らかすぎず絶妙な固さに焼かれた目玉焼きは朝ご飯の定番。
そして、最強の料理。
わかめの味噌汁は、インスタントながらも、味が本格的で、わかめの少し固めの食感が僕には好みだ。
朝ご飯を食べ、歯を磨き、身支度を終えてから、まずは駅まで歩く。
普段は自転車登校だが、今日は電車で登校する。
今日は新黄駅にある本屋に行ってみたかったのだ。
ガタンゴトンと電車に揺られ、一度乗り換えてから、学校最寄りの駅まで揺られる。
自転車登校では味わえない電車内での読書時間。
二重人格のヒロインに恋をした主人公の恋愛小説を読んでいる。
学校最寄りの駅まであと二駅という所で、僕に声がかかった。
「おはよっ! 不知くんっ!」
見上げると、飯島さんがいた。
「おはよう」
「昨日ぶりだねー! なに読んでるのー?」
「『三人の距離は限りないゼロ』って小説」
「なにそれ? 三角関係の恋愛小説?」
「ヒロインが二重人格」
「なるほどねー……。初めて知ったよ……」
熱いと言いながら、飯島さんはタオルで汗を拭き、隣に座った。
距離が近くなって、思わず距離を少しとる。
「走ってきたの?」
「うん。遅刻しそうだったからね」
会話はそれきりでとまり、電車内は再び静まり返る。
ドクンドクンと胸の高鳴りは止まないが、それでも普通に話せていた自分を褒めてやりたい。
電車から、降りて、最寄り駅から学校まで向かう。
夏休み明けだからか、皆浮かれていた。
飯島さんは校門を潜るやいなや、沢山の人に声をかけている。
「おはよーございます!」
「結菜ちゃん、おはよー! なにその子? 彼氏?」
「違いますよー、友達ですって」
まぁ、そうだとは思っていた。
僕は二人の先輩にペコリと頭をさげ、会釈をする。
恋心は、本当に面倒だ。
「おっはよー!」
「うわっ」「わっ!」
後ろから誰かに抱きつかれる。
抱きつかr……えぇ?!
僕が驚いたのは、その相手が坂本さんだったからじゃない。
距離がほとんどゼロになっていた。
飯島さんとの距離はほとんどゼロ。
お互いの呼吸が聞こえそうなほどの距離だ。
そして、僕の腕に当たる飯島さんの小さな膨らみ。
そういう描写があるライトノベルや小説には柔らかさのみが描写されていたが、違った。
制服のツルツルとした生地に少し固い肌触りがあり、それがブラだと気が付く。
「不知、結菜おはよー!」
「ちょっと、桜ちゃん離してよー」
「なんでなん? ……ぁ。ごめっ!」
坂本さんは、察したらしいすぐに腕を話してくれた。
「不知……くん、その、気付いた?」
「は、はい……」
なぜか僕は敬語になってしまった。
「ほんとえっちだね……」
飯島さん、もうちょっと声量抑えてくれない?
周りに聞こえるから。
「これ、僕が悪いの……?」
「あぁん? あんた、結菜に手ぇだそうと考えてるんちゃうやろうな?」
理不尽だ。
ていうか、坂本さんのテンションが輝と似すぎてて逆に怖いよ。
「あ、生指の先生。じゃあねー!」
坂本さんは、そのまま、走って廊下に消えていった。
生指──生活指導のことだが、その指導長にあたる先生はラグビー部の顧問で化学の教師らしく授業も常に重たい空気をまとっているらしい。
「おい、心崎ィ! 髪染めんなァ!」
「あ、さーせん。また戻してきますね」
あれ、この声に聞き覚えがありありなんだけど。
僕らが後ろを振り返ると、
「さーせん」
とヘラヘラした口調で平謝りしている輝の姿が。
「お前なぁ……」
輝は、何度かペコペコした後、そのまま坂本さん同様、走って廊下へ消えていった。
坂本さんと違う点は、かなり本気で走っていたことだ。
輝が化学が苦手なのは、この先生のせいでもあるのでは?
「なんか、朝からインパクトが凄かったね……」
「うん……」
僕らは、教室に向かって、歩き出す。
すると、
「結菜ちゃん、蒼君、おはよう!」
後ろから聞こえた女の子の声に振り向く。
そこには、神田さんがにこりと微笑みながら、歩いていた。
「おはよっ! 陽菜ちゃんっ!」
「おはよう」
神田さんは飯島さんの隣に移動し、三人で廊下を歩く。
「夏休み楽しかったねー!」
「ねっ! 来年もまた遊びたいね」
僕らが歩いている途中、神田さんは、クラスメイトらしき男の子に話しかけられ、自信の教室に向かっていった。
そして、教室に着き、自室に座る。
飯島さんは、何人かのクラスメイトと話していた。
小説を読もうかと、さっき駅で読んでいた小説を開く。
この小説はただ甘いだけの恋愛小説じゃなく、苦悩や恋をした人だけが分かる痛みが丁寧に描写されているため、僕は結構好きだ。
「蒼ー! いるかー?」
数分読書に時間をかけていると、声をかけられた。
見上げると、輝がいて、クラスメイトに笑顔で話しかけている。
さすがは、2ーCの人気者だ。
「輝! アオイって誰?」
「あー、わりぃ、不知知らね?」
ハイテンションで輝と話していた女の子は僕の名前を聞くと、声音を一段階落とした。
「えー……、えーと、不知って、あの子? あのおとなしい子」
「おうそうそう、おーい! 蒼ー!」
「なに?」
僕は普通に言ったつもりだが、場の空気の温度が少し冷めたのが分かった。
輝は、それを異ともせず、こちらによってきた。
その途中で、
「おっ、飯島。おっはよー!」
「心崎くんおはよー!」
軽く挨拶を交わしながら、飯島さんと共にこちらに向かってきた。
「で、相談ってなんだ?」
ここで聞くなよと言ってやりたいが、当の本人は蒼に悩みなんて無さそうだけどなと笑っている。
今までは無かったよ。
というか、言えるわけないでしょ。悩みの種が居るんだから。
「あー……。ここで言うのはちょっと……」
「あ、わりぃ、本気だったか。じゃあ、また改めるわ」
輝は、じゃあなと言って僕のクラスメイトの女の子達と廊下へ出ていった。
「不知くん、なにか悩みがあるの?」
──好きな人がいるんだ。
なんて、言えるわけがない。
しかも、それを本人に。
「……不知くんがこうやって聞いて、話さないのは私知ってるよ」
薄紅色の唇は、「君のことは理解している」と言いたげに、艶っぽく動く。
「だから、本当に話したいとき言ってね」
飯島さんは、僕を心配そうに見る。
「うん。ありがとう。本当に大丈夫なんだ」
どうしようもなく、心を動かされる。
でも、まだ想いを伝えてはいけないと本能か直感が訴えてくる。
そして、同時にまた気が付く。
僕は、飯島さんの事が好きなんだと。