ファミレスに着くまで、僕は飯島さんの事ばかりを見ていた。
電車内で、目を瞑りながら、鼻歌を歌ったり、坂本さん達と談笑している姿を見ていた。
途中、何度か目が合ったが、薄く笑いかけてきて僕の心臓は一段と大きな音をたてた。
もう、これはひとりでは対処できないな。
僕は輝にいつか相談しようと思った。
電車から降りて、最近見慣れた新黄駅付近にある本屋にいつか寄ることを心にメモして気持ちを落ち着かせ、飯島さん達とファミレスまで歩いてきた。
「不知君は、どこに行きたい?」
「──えっ?」
不意に聞かれ、疑問符で返してしまった。
「えっとねー。来年受験生や就活で忙しくなるよね? だけど、来年もこうして皆で集まれたらいいなぁって思っていてさ。蒼君はどこに行きたいの?」
神田さんの説明に納得する。
そういう話か。
そして、同時に来年もこうして皆で集まれることに喜びを覚えていた。
来年は一体どうなっているのだろうか。
いつかは、飯島さんに告白をして、恋人としての楽しい時間を過ごしているのだろうか。
それが一番いい。
飯島さんに会う以前の僕なら、絶対に考えなかったことだ。
「うーん、そうだなぁ。海かプールに行きたいなぁ」
「いいね! 私も行きたい! メイメイの水着姿とか絶対可愛いって!」
「それなー!」
「命の水着姿……。ゴクリ」
「ヒカル、えっち、へんたい、ごみ。くらげに刺されろ」
長瀬の目付きこわっ!
というか「ごみ」って酷いな。
「命にごみって言われる日が来るとは……」
輝はしょぼーんと落ち込んでいた。
周りにはドヨドヨとした紫のうずまきが漂っているように見える。
「……まさか、不知君もそういうのを目当てにしてるの?! ……えっち」
「違うよ……!」
飯島さんに嫌われたくない僕は必死で弁解する。
「純粋に海やプールに行きたいだけなんだって!」
「……クスクス。冗談だってば。不知君やっぱり面白いね!」
「また、からかわれた……」
というかこのやり取りに既視感を感じたのは僕だけではないと思う。
「そういえば、前にもこんなやり取りあったね」
飯島さんも覚えていたようだ。
そうこうしている間に僕らはファミレスに到着し、今に至る。
ファミレスは昼のピークを越えたからか客足もまばらで少なかった。
だから、すぐに座ることができたし、ドリンクバーでワイワイしていても店側は目を瞑ってくれた。
飯島さんは、コーラとメロンソーダとタルピスを混ぜたお世辞にも綺麗とはいえない変な色のドリンクを作っていた。
僕は、黒ウーロン茶をグラスに注いで、席に戻った。
最近、なぜかウーロン茶にハマっており、きっと飯島さんがいつしかいっていた自分色に染めるという宣言通り、僕はお茶好きになってしまった。
健康にもいいらしいから、良いことではあるんだけどね。
席で待っていると、少しずつ皆戻ってきて、
最後、飯島さんが戻ってきて、
「さて、夏休みもあともう少しだね! 今日は最後の追い込み、行くよっ!」
「「「おー!!!」」」
輝、坂本さん、神田さんはノリよく拳を突き上げていた。
「……おー……!」
「キャー! メイメイかわいー!」
「今のちっちゃく『おー』ってヤバ。可愛くて心臓止まるかと思ったわ」
隣を見ると、当の本人は顔を真っ赤にして涙目でうつむいている。
「……ヒカル、抱きつこうとしたでしょ……」
しかし、ハグをしようとする輝の大胆な行動により、涙目だった瞳には、ギラリと猛獣のような光が宿っていた。
長瀬さん、怖すぎませんかね?
僕も何となくだが、最近いつも通りとなってきたツッコミが戻った気がする。
「茶番はこれくらいにして、勉強始めるよ! あっ、その前に私はちょっとおトイレへ……」
飯島さんは、いそいそとトイレに向かって行った。
飯島さんがトイレから戻ってきてから、本格的に勉強会が始まった。
宿題を終わらせていた僕は、適当にネットで見つけた問題のプリントを解き、輝が分からない所を教えた。
飯島さんはやはり学年6位なだけあり、坂本さんや長瀬が分からない問題もスラスラと解説していた。
そうして、時間は過ぎてそろそろお開きにしようかと飯島さんが言い出して、僕らは帰ることにした。
新黄駅で、飯島さん達は僕らと反対側の駅に乗る。
「不知くん、じゃあね。また、二学期もよろしくね」
「うん。こちらこそ」
改めて見てみると、やはり飯島さんは可愛い。
「それじゃあ、また明日。メイメイまた遊ぼうねー!」
「うん、またね」
長瀬は口角を少しあげて言った。
「じゃあなー!」
輝が神田さんと坂本さんに手を振る。
僕らは、電車が見えなくなるまで見ていた。
そして、自分達が乗る電車に乗って、地元へと帰る。
電車から降りると、辺りがもう真っ暗だった。
スマホを見てみると、二十時だった。
「夏休み楽しかったなー!」
「うん。本当にね」
「また、遊びたい」
三人で地元の道を歩く。
「あっ、小学校」
長瀬の声に僕と輝は右を向く。
小学校は駅から近いから、よく見えるんだよね。
「……本当によかった。命に友達が出来て」
「ありがとう」
輝は、友達想いだ。
こうして、彼女が友達の輪を広げることをすごく喜ぶ。
彼らはお互いの存在を確かめ合うように、指を絡めて手を握っていた。
「……輝」
「ん? どうした? 蒼」
「相談したい事があるんだけど」
「ほう。珍しいな」
「わりぃ、日を改めてでもいいか?」
「うん。僕もこれを言うのに迷ってるから」
「そっか。命送っていくわ。じゃあな」
輝はそういって、長瀬と共に夜の闇に溶け込んでいった。
僕は、久しぶりの一人の時間に戸惑う。
一人は慣れていた。
だけど、同時に寂しかったんだと今なら分かる。
身体中が熱いのは、夏の暑さだけじゃない。
飯島さんがくれた恋心の心地よい熱を覚えながら、自宅へと帰った。
夏休みが終わり、また日常が始まる。
だが、これからの日常はきっと見え方が違ってくるのだろう。
《第2話 完》
電車内で、目を瞑りながら、鼻歌を歌ったり、坂本さん達と談笑している姿を見ていた。
途中、何度か目が合ったが、薄く笑いかけてきて僕の心臓は一段と大きな音をたてた。
もう、これはひとりでは対処できないな。
僕は輝にいつか相談しようと思った。
電車から降りて、最近見慣れた新黄駅付近にある本屋にいつか寄ることを心にメモして気持ちを落ち着かせ、飯島さん達とファミレスまで歩いてきた。
「不知君は、どこに行きたい?」
「──えっ?」
不意に聞かれ、疑問符で返してしまった。
「えっとねー。来年受験生や就活で忙しくなるよね? だけど、来年もこうして皆で集まれたらいいなぁって思っていてさ。蒼君はどこに行きたいの?」
神田さんの説明に納得する。
そういう話か。
そして、同時に来年もこうして皆で集まれることに喜びを覚えていた。
来年は一体どうなっているのだろうか。
いつかは、飯島さんに告白をして、恋人としての楽しい時間を過ごしているのだろうか。
それが一番いい。
飯島さんに会う以前の僕なら、絶対に考えなかったことだ。
「うーん、そうだなぁ。海かプールに行きたいなぁ」
「いいね! 私も行きたい! メイメイの水着姿とか絶対可愛いって!」
「それなー!」
「命の水着姿……。ゴクリ」
「ヒカル、えっち、へんたい、ごみ。くらげに刺されろ」
長瀬の目付きこわっ!
というか「ごみ」って酷いな。
「命にごみって言われる日が来るとは……」
輝はしょぼーんと落ち込んでいた。
周りにはドヨドヨとした紫のうずまきが漂っているように見える。
「……まさか、不知君もそういうのを目当てにしてるの?! ……えっち」
「違うよ……!」
飯島さんに嫌われたくない僕は必死で弁解する。
「純粋に海やプールに行きたいだけなんだって!」
「……クスクス。冗談だってば。不知君やっぱり面白いね!」
「また、からかわれた……」
というかこのやり取りに既視感を感じたのは僕だけではないと思う。
「そういえば、前にもこんなやり取りあったね」
飯島さんも覚えていたようだ。
そうこうしている間に僕らはファミレスに到着し、今に至る。
ファミレスは昼のピークを越えたからか客足もまばらで少なかった。
だから、すぐに座ることができたし、ドリンクバーでワイワイしていても店側は目を瞑ってくれた。
飯島さんは、コーラとメロンソーダとタルピスを混ぜたお世辞にも綺麗とはいえない変な色のドリンクを作っていた。
僕は、黒ウーロン茶をグラスに注いで、席に戻った。
最近、なぜかウーロン茶にハマっており、きっと飯島さんがいつしかいっていた自分色に染めるという宣言通り、僕はお茶好きになってしまった。
健康にもいいらしいから、良いことではあるんだけどね。
席で待っていると、少しずつ皆戻ってきて、
最後、飯島さんが戻ってきて、
「さて、夏休みもあともう少しだね! 今日は最後の追い込み、行くよっ!」
「「「おー!!!」」」
輝、坂本さん、神田さんはノリよく拳を突き上げていた。
「……おー……!」
「キャー! メイメイかわいー!」
「今のちっちゃく『おー』ってヤバ。可愛くて心臓止まるかと思ったわ」
隣を見ると、当の本人は顔を真っ赤にして涙目でうつむいている。
「……ヒカル、抱きつこうとしたでしょ……」
しかし、ハグをしようとする輝の大胆な行動により、涙目だった瞳には、ギラリと猛獣のような光が宿っていた。
長瀬さん、怖すぎませんかね?
僕も何となくだが、最近いつも通りとなってきたツッコミが戻った気がする。
「茶番はこれくらいにして、勉強始めるよ! あっ、その前に私はちょっとおトイレへ……」
飯島さんは、いそいそとトイレに向かって行った。
飯島さんがトイレから戻ってきてから、本格的に勉強会が始まった。
宿題を終わらせていた僕は、適当にネットで見つけた問題のプリントを解き、輝が分からない所を教えた。
飯島さんはやはり学年6位なだけあり、坂本さんや長瀬が分からない問題もスラスラと解説していた。
そうして、時間は過ぎてそろそろお開きにしようかと飯島さんが言い出して、僕らは帰ることにした。
新黄駅で、飯島さん達は僕らと反対側の駅に乗る。
「不知くん、じゃあね。また、二学期もよろしくね」
「うん。こちらこそ」
改めて見てみると、やはり飯島さんは可愛い。
「それじゃあ、また明日。メイメイまた遊ぼうねー!」
「うん、またね」
長瀬は口角を少しあげて言った。
「じゃあなー!」
輝が神田さんと坂本さんに手を振る。
僕らは、電車が見えなくなるまで見ていた。
そして、自分達が乗る電車に乗って、地元へと帰る。
電車から降りると、辺りがもう真っ暗だった。
スマホを見てみると、二十時だった。
「夏休み楽しかったなー!」
「うん。本当にね」
「また、遊びたい」
三人で地元の道を歩く。
「あっ、小学校」
長瀬の声に僕と輝は右を向く。
小学校は駅から近いから、よく見えるんだよね。
「……本当によかった。命に友達が出来て」
「ありがとう」
輝は、友達想いだ。
こうして、彼女が友達の輪を広げることをすごく喜ぶ。
彼らはお互いの存在を確かめ合うように、指を絡めて手を握っていた。
「……輝」
「ん? どうした? 蒼」
「相談したい事があるんだけど」
「ほう。珍しいな」
「わりぃ、日を改めてでもいいか?」
「うん。僕もこれを言うのに迷ってるから」
「そっか。命送っていくわ。じゃあな」
輝はそういって、長瀬と共に夜の闇に溶け込んでいった。
僕は、久しぶりの一人の時間に戸惑う。
一人は慣れていた。
だけど、同時に寂しかったんだと今なら分かる。
身体中が熱いのは、夏の暑さだけじゃない。
飯島さんがくれた恋心の心地よい熱を覚えながら、自宅へと帰った。
夏休みが終わり、また日常が始まる。
だが、これからの日常はきっと見え方が違ってくるのだろう。
《第2話 完》