「は?」

 僕はその言葉に驚いた。

 今日もシンとした図書館にマヌケな僕の声が響く。

 本から目を離して、飯島さんの方を見る。

「いや、だからさ、7月の初めの土曜日と日曜日にファミレスでテスト勉強しない?」

 どうせ聞いてなかったんでしょと付け足して少し怒ったように彼女は言った。

 道端でクラスメイトに会ったりなんてすると面倒極まりない事が起こるに決まっている。

「簡単に異性と遊んでいいの?」

「? 仲が良いから言っているの。別にいいよね?」

 面倒な事が起きるのが嫌いな僕に対して、彼女はどうって事の無い顔で答えた。

「まぁ、いいけど……」

 本を本棚に返すため、立ち上がって距離をとってから、

「誤解される事だけは避けよう……」

 とボソリと呟くと、

「何か言ったー?」

 と返事が来た。

 やめてほしい。

 絶対後ろ見たらニヤニヤ笑ってるでしょ。

 見ないけど。

「なんにもない」

 そうかえし、ミステリー小説「シャークロック」の新刊を手に取り、いつもの自席へと戻った。

「ねぇねぇ、この本読んでみてよ」

 数十分後、飯島さんが、読み終えた本を僕に渡す。

 彼女の方から本を僕に紹介するなんて珍しい。

 それは、剣と魔法の世界で人間の言葉を話す事が出来るが、目が不自由な一匹の黒猫と耳が不自由だが、五大極魔法を唯一使える少女の感動ファンタジー物語だった。

 ライトノベルでかなり可愛いと思う表紙や、挿絵があるその本は、彼女なら読みそうだと思った。

 僕も、ファンタジー小説が好きだ。

 現実離れした世界観が、かなり小説好きの心をくすぐる。

「おー……。なかなか面白そうだね」

 「でしょでしょ! 不知君も読んでみてよ!」

 「読んでみるよ。でも、次に読みたい本が見つかったからその後に読むね」

 「うんっ!」

 彼女は、笑顔を咲かせると、そのまま新しい本を探し求め、本棚へ向かう。


 しかし、ライトノベルか……。


 ジャンルを少し変えてみるのも悪くないか。

 僕は飯島さんがオススメする本に少し興味が湧いた。

 僕はそれでも、先に読むと決めた小説をその世界での価値観や心情を無くさないためにも、読むのが著者に対しての礼儀だと思っているので僕はミステリー小説「シャークロック」を読む。

 あまり僕はミステリー小説は読まない。

 これも飯島さんに触発されてだけど、今まで主に恋愛小説やファンタジー小説を多く読んできた僕は少しジャンルを変えてみようと思い、手にしてみたのだけど文章の中の謎解きはかなり面白く、自分が気が付かずに真実が明かされた時はなるほどと驚かされるものばかりだ。

 時代風景も気に入ったし、現代の世界観の小説ばかりを読んできた僕にとってかなり新鮮な気持ちで読めた。

 やはり、まだまだ知らない小説が沢山ある。

 そう思うと、気持ちも少しワクワクしてきた。

 これは小説好きにとってありがたい再発見の事実だ。