「ねぇねぇ不知くんー! どっか行こうよぉー! せっかくの夏休みなんだからさぁー!」

 テスト結果を確認して数日経ったある日の図書館に飯島さんの大きな声が響き渡る。

 正直、うるさい。

 彼女は、ずいっと身をこちらに乗り出して、僕の目を見る。

 あ、飯島さんって結構目が綺麗だ。

「なに?」

「いや~、不知くんにはこの夏でやるべき事を教えようって思って!」

 夏にやるべきこと……。

 なんだろう。
 勉強? 読書?

 他には……。
 なにもない。

「不知くん、バカなの? それじゃあ、普段と変わらないじゃん」

 飯島さんにバカと言われる日が来るとは思わなかった。

「はいはい、どうせ僕は、小説バカですよ。……なんてね……」

「不知くん、どうしたの? 頭打ったの? 不知くんがそんなことを言い出すなんて……」

 ねぇ、僕が面白いことを言わない前提で進めないで。

「少しくらいなら面白いことは言えるよ?」

「ふふっ、そうだね。でねでね、不知くんがこの夏、やるべき課題は彼女を作る事だよっ!」

 デデーン! とどこからか効果音が流れた。
 音の方を見ると、飯島さんがスマホでタイミングよく音を鳴らしていた。

「ハードル高くない? 僕、友達と言える友達居ないんだけど……」

「え?! 不知くん、心崎くんは? 友達じゃないの?」

「輝はどっちかというと腐れ縁かな。その彼女は幼馴染みだけど」

「へぇー! なんだかライトノベルにありそうな展開だね! 私もそんな幼馴染み欲しかったなぁ……。でもでも、友達の彼女とか、なんかあったとき、修羅場になりそうじゃない?」

「問題が起こったらってこと? 今までそんなのは無かったかな。二人の時間は邪魔しないようにしてたし」

 なら大丈夫だねと飯島さんは笑顔で言う。

 いつも通りの夏休みがこれから、始まる。

 小説を読んで、ご飯を食べて、寝る日々が。

 別に虚しさなんて感じなかった。

 でも、飯島さんと出会ってから少し、誰かと話したくなった。

 人と関わるってそんなに怖いことじゃない。

 今は、そう思っている。

「飯島さん」

 僕は、彼女の名前を呼ぶ。

「どうしたの? 不知くん? あ、この小説が気に入ったとか? 読む?」

「あ、あぁ、まぁ、読むけど。……あのね」

 飯島さんは、なにかを察したのか、黙ってこちらを見た。

 きっと他の誰かなら、当たり前に言えること。

 でも、僕は慣れていないから、これを口にするのに勇気がいった。

「夏休み、どこか行こう。皆で」

 心臓が一段と大きく音をたてた。

「……なーんだ。急に真面目な顔をするから、ビックリした。私さっき言ってたじゃん。まぁ、でも、誘ってくれてありがとう。いこいこ! どこいく? あ、皆でって言ってたよね? 誰と行くの?」

 飯島さんからの射撃のような質問は止まらない。

 でも、なんだか嬉しい。

 ……人と関わるってこういうことか。

 僕は、人付き合いの楽しさに気が付いた気がした。