3日間のテスト期間を終えて、テスト結果返却日がやって来た。

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 学年順位:16/300

 国語総合 96点
 数学 85点
 化学 87点
 現代社会 91点
 英語 81点
 簿記 98点
 音楽 83点
 家庭基礎 86点
 情報社会 93点
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 職員室前にデカデカと貼り出されているテスト結果表を見て僕は安堵の息をはいた。

 飯島さんに教えてもらった簿記は予想以上の点数をだせた。

 国語はまぁ、いつも通りといった感じだ。

 数学が予想より高得点だった事、英語がもう少し点数をとれたなと改善点を心でメモをして、その場を去った。

 その際、飯島さんがこの前のレストランで見た二人の友達と歩いてこちらに向かっていた。

 飯島さんは、僕を見つけると笑顔で駆け寄ってきた。

 そう言えばこの人達なにさんだっけ……?

 ロングヘアーの女の子が確か、神谷(かみや)さんで、金髪のギャルみたいな人が坂下(さかした)さんだっけ?

 全然人の名前覚えられない。

 もしかしたら、この学校で名前覚えているの飯島さんと輝だけじゃない?

「不知くん、テストどうだった?」

 まぶしいほどの笑顔で飯島さんは僕に聞く。

 ロングヘアーの神谷さんも飯島さんと同じく、

「あ、輝君の友達のえっと、えー……。なにあおいだっけ? 桜?」

 桜と呼ばれた坂下さんも考える。

 というか、坂下さんってそんな可愛い名前だったんだ。

 まぁ、ギャルだからという偏見は良くないと思った。

「なんやったっけ? ふ……布川? 心崎、名前でしか呼ばんから分からんわー!」

 坂下さんは、文字数すらオーバーして間違える。

 僕の名字ってそんなに珍しくないはずなんだけどなぁ。

 飯島さんは、ため息まじりで、

「桜ちゃん、陽菜ちゃん、不知(ふち)くん。不知(あおい)くんだよ」

 飯島さんの言葉を聞いて、やっと名前がでてきたと言わんばかりの表情をして、坂下さんは僕にこんな事を聞く。

「あーね、そういえば、ふ……不知は、あたしらの名前覚えてるん?」

 ……覚えてない。

「……」

 僕が黙っていると、

「……不知くん、名前やっぱり覚えていないんだね……」

 飯島さんの大きなため息が確かにその言葉の中に聞こえた。

「……ごめんなさい。僕、人の名前覚えるの苦手なんだ」

 坂下さんと神谷さんは顔を見合わせて、笑った。

「あっはっは……はー……。いいっていいって、ふふっ、あたしらも間違えたんだしおあいこね。あたしは坂本(さかもと)(さくら)。よろしくね、不知」

 名前間違ってたじゃないか僕。

 よかった、言わなくて。

 金髪ギャル──坂本さんは、僕に握手を求めた。

 それに凄く困惑する。

 一度会っているとはいえ、異性に握手は普通しないよ。

 良く言えばフレンドリーな人で、悪く言えば距離感が近くて暑苦しい人だなと思った。

 マジマジと顔を見ると、金髪であることを除けば少しアカ姉に似ていた。

「蒼君、よろしくねー! 私は神田(かんだ)陽菜(ひな)。その、あんまり本とか読まないからオススメあったら教えてね」

 ロングヘアーの女の子──神田さんは、そういって笑顔を見せてくれた。

「不知くん、名前、覚えた?」

 飯島さんがジト目で聞いてくる。

 これ次忘れたり間違えたりしたらダメなやつだ。

「うん。覚えたよ」

 そう言うと飯島さんはすぐに笑顔になったあと、思い出したように言った。

「そっか。あ、テストテスト! 桜ちゃん、陽菜ちゃん、不知くん見に行こう!」

「あーい!」

「うんっ!」

「僕もう見たんだけど……」

 と言いつつ、僕は彼女らについていく。

 テスト結果表の前には沢山の人がいた。

 僕は終礼後、すぐに見に行ったから比較的人が少なかった。

 だけど、ほぼ全学年が集まっているこの職員室前はごった返して、ワイワイと賑わっていた。

「えっと……。あたしらの学年は……。あった! 結菜、陽菜、えーと、ふ、不知ー! ここだよー!」

 坂本さんは、僕らを手招きしてこちらに呼び寄せる。

「えっと……。あっ、不知くん凄い! 16位だよ!」

「それ、飯島さんが言ったら嫌味になるよ。学年10位以内入っているじゃん。凄いね」

 言ってしまえばアレだけど、僕の中では飯島さん達のような人気者でキラキラしている人達はあまり勉強をしているイメージがない。

 言葉を選ばないで言うと、飯島さん達は良い点数を取っていない、つまり、赤点を取っていると思っていた。

 だけど、違った。

 飯島さんは6位を取っていた。

 予想と違った事に少し驚いた。

 坂本さん達も凄かった。

 坂本さんは23位、神田さんは19位と3人とも成績上位に入っていた。

「よかったー。私これでひとつでも赤点取っちゃったら補習室行き確定だったからさ、本当に良かったー」

 神田さんは何度も安堵のため息をつく。

 飯島さんが補習室という言葉を聞いて、首をかしげていたので説明する。

「補習室っていうのは、赤点をその学年と次の学年の一学期までで五個以上取っちゃうとその学年の間は補習室っていう復習をする時間を取らなきゃ行けないんだ。それが結構長いから皆それに行かないように勉強してるんだ」

「へぇ~、そっか。ならなくて良かったね陽菜ちゃん!」

「う、うんっ。不知君やけに詳しいけど、補習室行った事あるの?」

 そう来たか。

 僕は補習室に一度も入った事がない。

 絶対面倒くさいだろうし、読書の時間が削れてしまう。

 というかその部屋がどこにあるのか分からないし、そんな部屋本当にあるのかすら分からない。

 それは避けたいからとりあえず、勉強する。

 いつもの事だが。

 だが、彼女らがお気に入りの輝はよく補習室に行っている。

 なんでも、彼は科学が絶望的に悪く、科学の先生とは顔馴染みなんだとか。

 僕は多分先生に名前を覚えてもらっていないだろう。

 そうやって、目立つよりは全然良いと思うが。

「いや、輝が科学赤点続きだから」

 輝はこれを皆に知らせているかは知らないが、僕は伝えることにした。

「おー……。そうなんだ。輝君、科学苦手なんだ……。教えたら、気が引けるかなぁ」

 神田さんは、真剣な顔で輝の気をどうやって引かせるか作戦を立てている。

 やっぱり輝はモテるんだなぁと思う。

 彼に彼女が居ることをこの子達は知っているのだろうかとも思った。

 もし、知らないなら僕は速急に伝えなければいけない。

 それは、彼女らが勘違いをしていて輝に告白をして傷付くのを未然に防止するためだ。

 彼女の存在を知っておけば、彼女らが告白をする事はないはずだから。

「あのさ、知ってるかもしれないけど、輝って彼女いるよ?」

「知ってるよー! なんかね、最近好きっていう気持ちを持っておきたいんだよねー! あ、好きはLOVEじゃないよ! LIKEの方ね!」

「へー……。そうなんだ。あんまり、分からないや」

 確かに、LOVEは愛しているという意味だし、LIKEは好きだけだから、愛情と好意は違うって誰かが言っていた気がする。

「不知君もきっと、好きな人が出来たら分かると思うよ」

 神田さんは、ちらりと飯島さんの方を見て、僕に笑いかけた。

 彼女がなんでそんな行動をしたのかは分からないけど、とりあえず僕らは赤点と補習室を回避し、一日も欠けることのない夏休みを迎えることになった。