最初は男女二人で同居なんて、と思っていた。
 でも母は全く気にしていなかったし、実際、微塵もそういう空気になったことがない。

 私は自分の中で、一つの結論が導き出されつつあったのだ。
 そう。先輩の恋愛対象は、女性(わたし)ではなく男性(タカナシ先輩)だということ。

 それなら全ての辻褄が合う。というか、最早これ以上の最適解はないと思っている。


「俺は、女が好きだ」

「えっ、酷い! タカナシ先輩のことはどうするんですか!?」

「お前はいつから冗談が通じなくなったんだ」


 先輩が耐えかねたように深々とため息をつく。
 彼の眉間に刻まれた皺が増えないうちに、私は軌道修正を図ることにした。


「じゃあ先輩は、いま付き合っている人はいないということですか?」

「だから、そう言ってる」

「そうですか。安心しました」


 私が言うと、隣で歩いていた足が止まった。
 何だろう。訝しみながらも見上げ、交わった視線に息を呑む。


「華」

「はい」

「……それは、どういう意味だ」


 いつになく硬い表情だった。思わずこちらの肝が冷えてしまいそうなほど。


「どういうって、」