そのはずなのだ。
小さい頃から、仕事を頑張る母は私の憧れだった。かっこ良くて快活な、自慢の母。
アメリカで出来た友人の話。注文すると食べ切れない程の量が出てきたレストランの話。向こうでの出来事を話すときの母はいつも楽しそうで。
その語り口から私は、普段滅多に見せない力の抜けた母の姿を探したものだ。
『……でも、華は今年受験でしょ? 大事な時期だし、本当は家事だって私がやらなきゃいけないくらいなのに、』
『お母さん』
自身を責め立てるような色が混じり始めた母に、私はコンロの火を止めて顔を上げた。
『約束したよね。お母さんが仕事頑張る代わりに、家のことは私がちゃんとやるって』
小学生の頃、母と交わした約束。
新しく始まった二人の生活の拠点はまさしくこのアパートで、私たちは役割分担をして今日までやってきた。
『せっかくお母さんのことを必要としてくれてるんだから、行かなきゃもったいないよ』
『華……』
『それに、私を理由に断るとか、絶対嫌』
母のお荷物にはなりたくない。いつまでもおんぶにだっこのままじゃいられない。
『食べよ。食べてから、ちゃんと考えようよ』