表面的な言葉だと、偽善的な響きだと、突き放すことができただろうか。
家族でも友達でも恋人でもない。まさしくただの「同居人」であることは揺るぎない事実なのに、私は彼から放たれたその言葉を、ごく自然と受け止めている自分に――その言葉を待っていた自分に、酷く驚いた。
「……そう、ですね」
一人じゃない。
趣味も特技も、血液型も何もかも。お互い聞かないし、多分知ろうともしていない。赤の他人で、決して相性がいいとも言えない私たち。
でも、一人じゃない。それだけは確かに言える。
「先輩、テレビつけて下さい」
「お前人の話聞いてたか?」
私が彼に窘められるのも、出会った日以来かもしれない。
違いますよ、と前置きして、私は顔を上げた。
「今日からテレビは、気を紛らわすためじゃなくて、純粋に番組を楽しむために視聴します」
私の意見に納得したのか、彼は黙ってリモコンのボタンを押す。画面は明るく灯って、タレントの高笑いがリビングに響き渡った。
「ところで質問なんだが、この番組の何が面白いんだ?」
「張り倒しますよ」
好みの相互理解は、まだまだ不十分らしい。