一人の空間というのは、慣れていても突然虚しくなったりする。
 テレビは必須だ。常に誰かの話し声や笑い声が聞こえているだけで、随分心持ちが違った。

 母の帰宅を待つ間、寂しさで押し潰されないようにするには、それが最善で。同時に、一人でいることにもっと慣れなければならないなと思った。

 会話が途切れて、空気感が変わった。
 彼は突如リモコンを手繰り寄せると、テレビをぷつんと消してしまう。


「じゃあ、もういらないな」


 落ち着いていて、普段より低い声だった。
 黒くなった画面から隣に視線を移せば、やけに真剣な顔をした彼がいる。


「……何で消すんですか」

「今は俺がいるんだから、必要ないだろ」


 どういうことだ。眉根を寄せて、対抗するように彼の瞳を覗き込む。


「お前はもう静かな家に帰ることはないし、テレビで気を紛らわす必要もない」

「それは、」

「華」


 真面目な話をしているのだと、きちんと分かった。
 彼はあくまでも諭すように、真っ直ぐ私を見据えてくる。


「お前はもう、一人じゃない」