肩を竦めて軽く息をついたチョコに、面食らってしまった。さっきまでふざけ倒していた彼女だけれど、今はすごくまともなことを言っている。
唯一の部員に窘められた部長は、相変わらず無表情のままだ。
私は壁にかかっている時計を視界に入れ、慌てて立ち上がった。
「すみません、私そろそろ帰ります」
今日はスーパーに寄って、食材を買い込んでから帰ると決めている。買い物をして電車に揺られて、それから夕飯の支度をするとなると、今すぐ学校を出なければ。
「またまたぁ、そんなこと言って。私の追及から逃れたいだけなんじゃないのかね?」
「失礼します」
わざとらしく眼鏡を押し上げ、安い刑事ドラマの真似事をし出したチョコは無視することにした。
横をすり抜けると、彼女は「明日も取り調べは続けるからな!」と声を低めて茶番を続ける。
そして、高橋先輩――いや、タカナシ先輩? 何が正解かも分からない。
ともかく彼に再度会釈をして、ドアノブを回そうとした時。
「……入部用紙渡されて、動揺した?」
ぽつりと、そんな言葉が耳に届いた。
自分の聴覚を疑ったけれど、幻聴でも聞き間違いでもなかったらしい。彼が放ったそれに、チョコが声を上げる。
「やっだぁ、タカナシ先輩! 新しいダジャレですか? 今回もめっちゃつまんないですよぅ!」
え? 怖い。急にダジャレ? 何?
いい加減、学校でも家でもいいから安息の地が欲しい、と切に願う今日この頃であった。