無視か。
顔色一つ変えずに続けた彼が、水を一口飲んでからこちらに視線を投げる。
「華が気に病む必要はない。それに、隠したっていずれバレるだろ」
「もう既に病んでるんですって……」
深々と息を吐き、項垂れた。
眉目秀麗? まあ確かに。それは認める。
でも冷静沈着って。どこをどう見たらそうなるんだ。やれブロッコリーは嫌だの、自分は火星人だのと喚く奇人っぷりを、是非ともご覧に入れたい。
「ああ、華。そういえば」
「何ですか」
思い出した、と言わんばかりに彼が顔を上げる。
「弁当ありがとな。うまかった」
に、と口角を上げて、先程まで不満を垂れていた時とは対照的な、清々しい笑顔を向けてきた。
私が彼を無下にできない理由は、こういったところにある。
いただきます、ごちそうさま、ただいま、おかえり、おはよう、おやすみ、ごめん、ありがとう。
彼は挨拶を欠かしたことはなくて、突拍子もない話をしない限りは常識人なのだ。
「……それは、良かったです」
「だが、にんじんを入れる必要はあったのか? あと、華の味付けは薄いと思う」
「あなたの舌がイカれてるんですよ!」
まあでも、もう少しだけ粗雑に扱っても罰当たらないよな、きっと。