何勝手なこと言ってくれてるんだ。こちとら波風立てないように、むしろそっちの迷惑にならないように、せめて同居の件は秘密にしておこうと思ったのに。
「いやいやいや、ちょっと待って下さいよ! そんなこと言って困るのは先輩ですけど、私だって被害被るんですからね!」
「さっきから気になっていたが、先輩ってなんだ。俺のことは一太でいいって何度も言っただろ」
「初耳ですが!?」
学校で「鈴木さん」という呼称を使うのは、なんとなく憚られた。
ほとんどの人が「鈴木先輩」と呼ぶし、それにつられて先輩呼びが定着してしまったのだ。同居がバレないためにも、他の人と揃えるのは必要だと思ったんだけれど。
「大体、婚約者がいるのに私とこうして住んでるなんて、ますます私の評価下がるじゃないですか!」
「翻訳者? 華は十分地球の言語を使いこなせていると思うが、心配なら手配するか?」
「だから私は火星人じゃないですって!」
違う、脱線している場合じゃない。
一度深呼吸をして落ち着こう。この人が提供する話題を真面目に受け取ってはいけないと思いつつも、毎度応戦してしまう私も私だ。
「こんにゃくだか何だか知らないが、」
「婚約です。婚約者」
「ともかく」