その口ぶりだと、彼がさも有名人かのようだ。
私の問いかけに、彼女は神妙な顔で質問を返してきた。
「まさか、知らないの?」
主語の欠けたクエスチョンに首を傾げると、そんな私の様子を見た彼女が「信じられない」と鼻息を荒らげる。
「鈴木一太先輩といえば校内きってのイケメン、まさに一級、国宝級! その眉目秀麗っぷりもさることながら、常に成績優秀かつ冷静沈着で、とにかくすごい人なの!」
立ち上がって早口でまくし立てる彼女は、一体どこに向かってプレゼンしているのか。途中から私ではなく、教室全体に投げかけているような声量だった。
ただでさえ先程から注目されているのに、もう本当に勘弁してほしい。
「へえ……そうなんだ……」
「はいそこ、反応が薄いッ!」
渋々相槌を打つと、眼前に人差し指を突き付けられ、思わずのけ反った。
言いたいことを言って満足したのか、彼女はずり下がった眼鏡を押し上げながら腰を下ろす。
「そんな鈴木先輩が浮気となれば、周りが黙ってるわけないでしょ。新聞部としても、これは大スクープなのよ!」
「浮気?」