ジョギングというより、最早これでは大型犬の散歩だ。
そんなことを思いながら緩く走っていた時、向かいから一人の女性が歩いてくるのが見えた。こちらは本当に犬の散歩をしている。
「あら? 鈴木さんとこの息子さん?」
すれ違う間際、女性が立ち止まって振り向いた。
反応が遅れた私とは対照的に、鈴木さんが突如足を止めたものだから、彼の腕を掴んでいた私は後ろに転びそうになった。
「伊集院さん、おはようございます」
姿勢を正して丁寧に会釈をした鈴木さんに、思わず目を見開く。
今の今まで重たそうな瞼が支配していた瞳はぱっちり二重が健在で、人当たりの良い笑顔を浮かべた好青年がそこにはいた。
「おはよう。こんなに早くに珍しいわね」
「ああ……ちょっと、ジョギングを始めたんです」
「へえ、それはいいわね」
女性の方は、私の母よりも少し年齢が上といったところだろうか。
会話を続ける二人はなんてことない光景のはずなのに、私には非常に珍しいものとして映った。
鈴木さんが私以外の人と話しているのを見るのは初めてで、何だか変な感じがする。
というかこの人、外面良すぎじゃない? 私と話してる時とは大違いだし、最早人格が変わっている。
「最近お父さん見かけないけど……元気?」