「鈴木さん! 朝です! あーさー!」

「……分かったから、ちょっとボリューム落としてくれ」

「嫌です。今にも寝そうじゃないですか」


 翌日、午前七時。彼の部屋のドアを開けて声を張る。
 既に身支度を終えた私は、先程からベッドをなかなか出ない同居人と格闘していた。


「十秒以内に部屋から出てこないと、今日の夕飯はにんじんのグラッセだけにします」

「待たせた。行こうか」


 なんという態度の変わりよう。にんじんは偉大だ、と感謝しつつ、いつか食べられるようになって欲しいと思った。

 気候は徐々に温かくなってきたものの、朝の空気はひんやりと涼しく、彼も私もウィンドブレーカーを羽織って出発する。


「どうですか。朝の空気、おいしいですよね」

「ああ」

「最初はしんどいかもしれないですけど、慣れたらきっと楽しいですよ。ちょっと走ってみます?」

「ああ」

「……鈴木さん、寝ないで下さい」


 単調な相槌を訝しんで隣を見れば、案の定、焦点の定まっていない瞳が閉じかかっていた。
 ゆさゆさと肩を揺らして目を覚まさせたところで、半ば強引に彼の腕を引く。


「ほら、行きますよ! 足動かして!」