彼の方へ向けて、すい、と放り投げる。
 軌道は真っ直ぐとはいえなかったけれど、それでもしっかり届いた。

 机の上に突如着陸した飛行機を視界に入れたのか、彼は手を止めて頭を上げる。それを手に取ってしばし固まった後で、こちらを振り返った。


「鈴木さん、ご飯ですよ!」


 ようやく私の声が耳に届いたらしい。彼は目を見開いて、呆けたように私を見つめる。


「華――」

「にんじん嫌だからって、残したら駄目ですからね! ほら、早くして下さい」


 彼が立ち上がったのを目視してから、私はキッチンへと戻った。

 炊き立てのご飯。カレールーの隠し味は味噌。ほんのり和の匂いがして、無性に落ち着くのだ。


「いただきます」


 二人揃ってテーブルにつき、手を合わせる。

 先程から彼がやけに静かで、何だか気味が悪い――といったら怒られるかもしれないけれど。


「どうですか?」


 沈黙に耐え切れず、私は自分から切り出した。
 彼は小刻みに何度も頷いて、柔和に微笑む。


「……うまい」

「火星で食べたよりも、ですか?」


 何となく、元気がないなと思った。彼がしおらしいだけで、こちらが戸惑ってしまう。

 だからというべきか。私は彼の代わりに、食卓にユーモアを足そうとそんな質問を投げた。


「いや、」


 彼は首を振る。
 そして私の顔を見据えると、


「火星にカレーはなかったから――このカレーは宇宙一、だな」


 馬鹿真面目にそう言って、嬉しそうに笑った。