一応断りを入れてからドアを引くと、机に向かっている彼の姿が目に映る。
 手元が動いているから、寝てはいないはずだ。だとすると。


『どうも昔から癖が抜けなくてな。何かやり始めると、終わるまでそれ以外のことを放り出してしまう』


 彼の言葉には一切の偽りがなかったということか。いや、別に疑っていたわけではなかったけれど。
 それにしたってすごい集中力だ。周りの音を遮断してしまうくらいの、のめり込みよう。

 なるほど、確かにこれは厄介。自分一人ではなかなか戻って来られないんだ。

 仕方ないな、と一歩踏み出そうとした時、昨日の自分の言葉を思い出した。


『一つ。お互いの部屋には立ち入らないこと』


 そうだった。自ら設定しておいて、開始一日で破るわけにはいかない。

 さてどうしよう、と首を捻った。
 リビングをなんとはなしに見回して、一つ方法を思いつく。

 電話の横にあるメモ帳を一枚破って、ペンを取った。端的に文章を書き記してから、それを折っていく。
 あれ、どうだったっけ。これで合ってるかな。一人でぶつぶつ零しながら、何とかそれらしい形になった。


「えいっ」