食器棚をまじまじと観察しながら、感嘆してしまう。
 余程使われていないのか。なんというか、生活感がまるでない。

 縁をエメラルドグリーンでぐるりと囲われたデザインの、大きめの深皿。今日はそれに盛り付けようと決めたところで、私は顔を上げた。

 リビングに彼の姿はなく、ただ鍋を火にかけている音が静かに響き渡るばかりだった。

 自分の部屋にいるんだろうか。
 そう見当をつけて、私は彼の部屋のドアをノックした。


「鈴木さん、もうそろそろご飯できますよ」


 返答はない。更にもう一度呼び掛けてみる。


「にんじんちゃんと刻みましたから、大丈夫ですよー」


 いつもはいちょう切りで投入していたものを、今日はわざわざ小さく刻んでルーに混ぜ込んだ。物凄く手間というわけでもなかったけれど、ちょっとだけ面倒だったから、次からは普通に入れようと思う。


「鈴木さーん?」


 一向に聞こえてこない返事。
 私は耳をぴたりとドアにくっつけてみた。中から僅かながら物音はする。どうやらここにいるのは間違いないようだ。


「鈴木さん、開けますねー」