食いついた私に、彼は視線だけで咎めてくる。
いや、だったらもうちょっと矛盾点のない設定にして欲しい。
咳払い一つして、彼は「ともかく」と話の流れを変えた。都合が悪くなったんだろう。
「これから暮らしていくにあたって、決めておきたいことがある」
同居におけるルール、だろうか。明確に定めるのは私としても賛成だ。
鈴木さんは人差し指を立てると、私の顔をじっと見つめて言い放った。
「家計については華に一任する」
「は、」
「食材は勿論、必要なものがあれば何でも好きに買って構わない。遠慮はするな」
遠慮、とかいう問題ではなくて。
この人はちゃんと理解しているんだろうか。自分の財布を赤の他人に握らせる、そんなことを提案しているのだ。
「いや――流石に無理ですよ。住まわせてもらっている分際で」
「分際も何もないだろ。ここがお前の家なんだから」
「それは……でも……」
彼の言葉の真意が分からないわけではなかったけれど、いきなり「我が家だ」とふんぞり返ることなんてできない。それとも、そんなに図々しい人間だと思われたんだろうか。
「華。いいか、考えてみろ。これから暮らしていく中で、料理をするのは誰だ」
「え? まあ、私、ですかね……」