何だか重苦しい空気にしてしまった。少し申し訳なくなってくる。
 よくよく考えればちょっと失礼だったかな、と私は手を振って彼の言葉を押しとどめた。


「違う、聞いてくれ」

「え?」


 物々しい声で私の注意を引いた彼が、再び腕を掴んでくる。
 一体どんな内容を切り出すのか、言いにくいことを言わせようとしてしまったのか。焦燥と心配が胸の奥を掠めた。


「実は――俺は、火星人で」

「…………はあ?」

「地球人の火星移住計画を知ってるか。俺はその計画を手助けしている一人でな」


 正気か、こいつは。
 開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ。呆れ返って声も出ない私の肩を揺らし、彼はつらつらと意味の分からないプランを語っている。


「この部屋には、その計画の関係書類が保管されている。機密事項だ。一部の関係者にしか閲覧が許されていない」

「あー、はい。そうでしたか」


 彼のくだらないジョークに、まともに付き合う義理はない。適当に頷いていると、一層激しく肩を揺さぶられた。


「だから華、すまん。いくら家族とはいえ、お前にも見せるわけにはいかないんだ!」

「誰がですか。火星人と家族だなんて勘弁して下さい」


 早まったかなあ、色々。
 異星人の世迷い言を聞き流しながら、私は胸中で愚痴を零す他なかった。