しゃ、とカーテンを開いて、窓を開ける。優しい風が室内に入り込んできて、新鮮な空気に深呼吸をした。


「ああ……掃除機は確かあっちで、」

「いいです、動かないで下さい。まだ全快じゃないでしょう」


 廊下の方を指さして立ち上がろうとした彼に、手で制してから踵を返す。


「こっちですか?」

「ああ、その奥の方に……」

「あ、ここです?」


 廊下を進んで左側。ドアノブに手をかけ、僅かに回した時だった。


「待て!!」


 物凄い剣幕で声が飛んできたかと思えば、廊下を全力疾走してきた彼が私の腕を勢い任せに掴んだ。
 びっくり、なんてもんじゃない。心臓が止まるかと思った。恐る恐る彼に顔を向けると、


「ハナコ、待て!」

「犬扱いやめて下さいって」

「良い子だ。伏せ」

「……殴っていいです?」


 私の手を潔く離した彼が、ドアの目の前に立ち塞がる。険しい表情そのままに、両腕を広げて首を振った。


「ここは、駄目だ」

「といいますと?」

「立ち入り禁止だ。絶対に開けるな」

「どうしてですか?」

「何でもだ」