「改めまして、今日からお世話になります」


 二時間後。宣言通りマンションへ戻ってきた私は、ボストンバッグを抱えたまま頭を下げた。
 そんな私をソファに座り込んだまま見上げる彼の表情は、すっかり呆けている。


「何ですか。そんな阿保面して」

「いや、本当に戻ってくると……思わなくて」


 確かに彼も頑なだったけれど、私も負けず劣らず頑固だった。
 とはいえあんなに強気な態度だったくせに、突然大人しくされると調子が狂う。


「言っときますけど、死なれたら困るだけですからね。家事はきちんとやります。私のことは家政婦とでも思って下さい」


 どんな事情であれ、私がこの家に住まわせてもらうということには変わりない。
 ただ居座るだけだったら頭が上がらないけれど、家事を担うという交換条件のようなもので、私は彼に強気でいられるのだ。


「何言ってんだ。一緒に暮らす以上、俺とお前は家族で――」

「とりあえず部屋片付けますね」


 彼の言葉をぶった切って、私は言い放った。
 こんな状態の部屋にいつまでもいるだなんて耐えられない。早急に手をつけなければ。


「掃除機は流石にありますよね? 掃除用具とかってどこにしまってますか?」