料理は全くしていなかったのか、リビングが荒れきっている割にキッチンは綺麗だった。
 戸棚や収納を覗いて調理器具を拝借し、お湯を沸かす。


「鈴木さん、だしのもと的なのあります? 顆粒でも液体でもいいんですけど」


 リビングのど真ん中で倒れていた彼をひとまずソファに寝かせ、コップに汲んだ水を差し出した。


「だし? いや……」

「ですよねえ、分かりました」


 ざっと見た限り、基本的な調味料は揃っているものの、ほとんど使った痕跡がない。鍋や食器も然り。
 彼がキッチンに立たない人間であることは、容易に想像できた。


「冷蔵庫開けても大丈夫ですか?」

「いいけど……何も、入ってないぞ」


 彼の言う通り、中には何も入っていなかった。本当に、何も。
 補足するのなら、恐らく賞味期限切れであろうエナジードリンクが数本。これは酷い。
 余計な荷物だなと思ったけれど、買い物帰りにそのまま来て良かった。

 温まってきたお湯に塩、醤油、みりんを加えて、味を調整する。買ってきた白菜、椎茸を切ってから投入し、沸騰させずに火を通してから木綿豆腐も突っ込んだ。


「……いい匂い、だな」