返事は、ない。
 またか、と思わず息を吐く。仕方なく二回目を鳴らしても、最初の日のように足音が聞こえてくることもなかった。

 出掛けているんだろうか。だとしたらタイミングが悪い。


「……いいや、」


 もういいや。むしろ、顔合わせる方が気まずいし。
 ポケットから合鍵を出して、勝手に解錠する。ドアを細く開けて中を覗き込んだけれど、薄暗くてよく見えなかった。


「す、鈴木さーん……」


 少々呼び方に迷って、近所の人みたいな声掛けになってしまう。
 相変わらず中から物音はしない。


「鈴木さん、入りますよ」


 ぱたん、とドアが閉まったのを確認して、私は家の中に立ち入った。

 カーテンを閉め切っているのか、中は本当に暗かった。それなのに電気もついていない。

 真っ直ぐ廊下を進んでいくとリビングに着く。瞬間、目の前に広がる光景に目を見開いた。

 床一面を覆う物、物、物。
 衣類だったり本だったり、とにかくそこら中に散らばっている。初めて入った日に見た簡素ながらも綺麗なリビングはなくて、荒れ果てた部屋へと成り下がっていた。


「何、これ……」