言い返すのが精一杯だった。そうしないと、少しでもいつもの調子で食って掛からないと、喋ることもできないくらい泣いてしまいそうで。

 懸命にしゃくり上げながら返事をすると、先輩はわざとらしく口角を上げて私を揶揄う。


「お前に涙は似合わねーよ。笑っとけ」


 多分、優しさだった。
 立て直しを図りたい私の心境を読み取ったかのように、明るく取り繕う彼。


「……こういう時だけ先輩面しないで下さい」


 だから私も大袈裟に不機嫌な表情を作って、彼に対抗した。

 隣の空気がやけに静かになり、視線を上げた時。


「先輩じゃない」


 端的に述べた彼が、真面目な顔で訂正する。
 勿論、頭では分かっていた。彼は「兄」で、尚也さんは「父」。けれども、まだ振り切って呼ぶには勇気がいる。


「そう、ですね」


 いや――もう、これがいい機会なのかもしれない。


「……お兄ちゃん」

「おう」

「お兄ちゃん」

「何だ」

「練習です」