母の言葉に、力一杯ぶんぶんと首を振る。
 退屈なんてとんでもない。私が母のドレス姿を見たかったのだ。

 それに、こうしてきちんと目に焼き付けることで、ちゃんと二人が夫婦になったのだと実感したかった。


「お母さん、綺麗だよ! 世界一!」

「もう、華ったら」


 嬉しそうに、楽しそうに。バージンロードをゆっくり進んでいく二人を、食い入るように見つめる。

 結婚式を直接自分の目で見るのは、初めてだった。
 神聖な空気の中、大切な人同士が新しい未来に向かって羽ばたいていく。

 目の前で二人がお互いの顔を見て微笑んだ時、写真を撮るのも忘れて見入ってしまった。

 ねえ、お母さん。私はずっと、お母さんのその顔を見たかったんだよ。幸せでたまらないって、そんな顔を。


「……華」


 不意に隣から名前を呼ばれて、頭に温い手が乗る。
 とん、とん、と軽くたたかれた拍子に、目から水滴が落ちた。


「綺麗だな」


 たったそれだけ。ワンフレーズ。
 けれども十分に私を掬い上げるような声色に、ダムが決壊してしまう。

 拭わなきゃ。せっかくの晴れ姿が見えない。今だけの輝きを、しっかり記憶に刻んでおきたいのに。


「あ――当たり前じゃないですかっ、お母さんは世界一です」