わけも分からず涙が出た。


『お前はもう、一人じゃない』


 私はずっと、この人の愛情に守られていた。初めて会ったあの日から、今日に至るまで。あまりにも大きな温かさに。

 明るいリビング。賑やかな食卓。温かいご飯。父と母が揃っている「家族」。
 本当はずっと憧れていた。他の子にはあって、私にはないもの。

 ねだることはいけないと思って、今ある幸せを嚙み締めた。母を悲しませたくなかったから。

 でももう、私は一人じゃない。


「私も、妹になれるように……頑張ります」


 それが私たち「兄妹」の、総意だ。


「ははっ、志乃まで何泣いてるんだ。お母さんがそんなんじゃ、示しがつかないだろ……」


 尚也さんの声が萎む。震えて、潤んで、小さくなって。
 すぐ隣からも鼻を啜る音が聞こえて、そっと様子を窺った。

 唇をこれでもかと食い縛り、必死に嗚咽を堪える「兄」。彼がこれほど感情を露わにするのは新鮮で、見入ってしまった。


「……見んな」

「ぐえっ」


 手の平でグイ、と顔を強制的に背けられ、喉から変な悲鳴が漏れる。


「もうちょっと手加減できませんかね」

「知るか。ずっと見てたお前が悪い」

「大事な妹にその言い草は何ですか」


 うるさい、と噛みつくように言い放った彼に、画面越しで両親が笑っていた。