母に指摘され、思わず顔をしかめる。
 軽快に笑った尚也さんが、「さて」と自身の膝を叩いた。


「全員揃ったことだし、改めて話そうと思う」


 彼の言葉に、母も表情を引き締めた。隣り合う二人はお互いの顔を窺い、深く頷く。


「僕と彼女は結婚を考えていて、二人ももちろん一緒に、四人で暮らしていきたいと思ってる。それが、親側の総意です」


 そう語る尚也さんの真剣な眼差しは、やはり先輩と通ずるものがあった。彼はこちらに手を差し向けると、そのまま続ける。


「君たちの『総意』を、きちんと教えて欲しい。僕らはそれを優先する」


 静けさがリビングを覆った。
 咄嗟に口を開こうとして、思いとどまる。

 私は先輩と暮らしたいと言ったけれど、先輩はそれでいいのだろうか。これは私の意見であって、私たちの「総意」ではない。


「……華?」


 母の声が耳朶を打つ。
 私はゆっくりと顔を上げ、隣に座る先輩に視線を投げた。

 彼は、酷く優し気な笑みをたたえて、私をじっと見つめていた。


「華」


 そんな笑い方を、声を、操る人だっただろうか。今までの掴み切れない同居人の姿は消え去り、彼はただ私を慈愛で包み込む。


「俺を、お前の兄ちゃんにしてくれるか?」