礼を述べつつなんとはなしに視線を移し、――息が詰まった。
「……佐藤」
「はい」
「華は、ここを見たのか?」
入るな、と強く怒鳴った、父の部屋。どんな些細な情報であっても、彼女にとっては重大だ。半年後、離れるという選択を取ったとしても、まっさらな状態で戻れるように。
「見たというか……入ってましたよ。ああ、そうだこれ。華が持ってたんですけど、床に落ちちゃってたので」
そう言って渡されたのは、父と志乃さんの写真だった。
華は、これを見たのか。何を思ったんだ。傷ついただろうか。いやでも、見たんだとしたら、俺は――。
「じゃあ私、帰りますね。あとは先輩にお任せします」
落ち着いた声色で、佐藤が背を向けた。
あ、と何かを思い出したように振り返った彼女が、立ち尽くす俺に告げる。
「華、鈴木先輩のこと心配してましたよ。普段強情なのに、ここのところずっと元気なかったんで」
「……そうか」
気の抜けた返事をした俺に、彼女はグ、と口角を上げた。
「やーいやーい、鈴木先輩の意っ気地なしー! 逃げるなんてかっこ悪いですよー!」
「佐藤、」
「ちゃんと向き合ってあげて下さい。華のこと、大事なんでしょう?」
失礼します、と軽く頭を下げた彼女は、今度こそドアを開けて出て行った。
「意気地なし、か」
それが一番しっくりくる。
傷つけたくない。傷つきたくない。――今更だ。もう十分傷つけたのだから、あとは誠心誠意。
震える拳を強く握り締め、俺はようやく足を動かした。