俺は怖かった。逃げ道を作った。
華の真意が分からない。分からなくて、少しでも早い段階で芽を摘みたくて、彼女の嫌いなタイプを装った。
でも、もしそれが逆効果だったとしたら?
「――そうですよ」
彼女の声が震える。刹那、呼吸を忘れて、真っ暗闇に突き落とされたような感覚に陥った。
「だから先輩のこと、ちゃんと知りたいんです。うやむやのまま終わりたくありません」
俺は、間違えたのか。俺の浅はかな言動で、この子を傷つけてしまったのか。
彼女だけじゃない。志乃さんも、父さんも。俺のせいで、全員の未来を。
「お前、それ、本気で言ってんのか」
全身が酷く冷たい。頭もろくに回らなくて、俺は逃げた。
わざと彼女の顔は見なかった。見たらきっと、死にたくなる。
「タカナシ。帰り、華を送ってやってくれ。それと、……明日から俺、お前んちに泊まる」
華から離れる。距離を置く。いつまで? 分からない。ともかく、このまま側にいることは不可能だ。
「一太、それは――」
「頼んだ」
全て投げてしまって申し訳ないとは思ったが、丁寧に詫びる余裕は持ち合わせていなかった。
もし流れ星に願望を告げるとしたら、いま俺は迷いなく「最初から全てやり直したい」と懇願するだろう。
彼女の中の俺の記憶を、いっそ全て取り除いてやれたら。そんな無謀なことを思った。