まずい。どうする。いやとりあえず落ち着け。
 まだ慣れない一人の空間で、俺はひたすらに周囲をうろうろと歩き回っていた。

 父さんと志乃さんに幸せになってもらいたいという気持ちに、嘘偽りはない。俺の目的は、二人の結婚のために、これからやってくるであろう「妹」と半年間うまくやっていくことだ。

 二人の前では生意気に言っていたが、いざとなると緊張で冷や汗が止まらない。今までろくに女子と関わってこなかった過去を、これほど恨んだことはなかった。

 第一印象が大切。兄らしく、年上らしく余裕たっぷりに。
 一人ぶつぶつと呟いていると、突然インターホンが鳴った。……来た。

 ごくり、と生唾を飲み込み、呼吸を整えながらゆっくり玄関へ向かう。そんな俺を急かすようにもう一度呼び鈴が鳴って、慌てて内鍵を開けた。


「あ、」


 そこにいたのは、大きなボストンバッグを抱えた小柄な女の子だった。志乃さんとよく似た艶やかな黒髪は肩上で切り揃えられており、大きな瞳が幼さを助長している。

 彼女はその瞳を更に大きく見開くと、俺を凝視して数秒固まった。そして我に返ったのか、慌てたように頭を下げる。


「初めまして。今日からお世話になりま――」

「やあ、俺の可愛い小鳥ちゃん。待ってたよ」