俺自身、女の子への接し方があまり得意ではなかった。
気の利いたことは言えないし、話題作りや気遣いも苦手だ。そうした中でいきなり「妹」ができるかもしれない、というのも、かなり不安ではある。
ただ、俺は。
「――トライアルってことで、いいですか」
俺は何よりも、父さんの幸せを願っている。
「トライアル?」
父さんと彼女が怪訝な顔で俺の言葉を繰り返した。
はい、と頷いて、俺は続ける。
「俺たちがきちんと『兄妹』になれるか、住んでみて決めるってことです。えーと……華さん? には、俺が兄になるかもしれないってことは言わずに――その方が、もし駄目だった時に清算しやすいと思うので」
「一太くん……」
志乃さんが気遣わしげに俺を見やった。
「本当に大丈夫? 私たちに気を遣っているなら……」
「志乃さん」
視線がぶつかる。母親の目をした彼女に約束するように、自分自身に言い聞かせるように、俺は深く息を吸った。
「誓います。『兄』として、絶対に華さんを守ります」
そうして俺は、一人の少女と奇妙な同居生活を送ることになった。