本当に心配なら、娘の貞操も気にかけて欲しい。と、流石にそれは口に出せなかった。
自分が強情な自覚はある。
うんともすんとも言わずにいると、通話口から柔らかい声色が聞こえた。
「……大丈夫。あの子はきっと、華に大事なことを教えてくれるから」
「え?」
「じゃあそろそろ切るわね。おやすみ……じゃなかった、またね」
母の言葉を消化しきれずに戸惑う。ぼんやりしているうちに通話は途切れて、不通音が虚しく響いた。
ゆっくりと腕を下ろしながら、通話が終了した画面を見つめる。
「大事なことって……」
そんな曖昧な言い方をされても。むしろ大事なものを奪われそうな気しかしないんだけど。
その日は結局戻る気になんてなれなかったし、次の日も、そのまた次の日も。
テーブルの上、まるで置き忘れたかのように鎮座している合鍵に見て見ぬふりをして、私は質素に過ごした。