顔を出したのは、私と同い年ぐらいだろうか。焦げ茶色の柔らかそうな髪が印象的な、男の子だった。

 息子さんがいるとは聞いていなかったな、と驚きつつも、私はとにかく挨拶をしようと頭を下げる。


「初めまして。今日からお世話になりま――」

「やあ、俺の可愛い小鳥ちゃん。待ってたよ」


 斜め四十五度、腰を折ったまま固まる。
 少し上から降ってきた声で再生されたのは、四十五度どころか、百八十度見当違いなセリフだった。


「すみません部屋間違えました」

「待て待て待て、待てって」


 反射的に踵を返した私の背中に追い縋る、低めなトーン。
 ぐん、とパーカーの裾を引っ張られて、危うく転びそうになった。


「何するんですか! 警察呼びますよ!」

「出会って数秒で人を不審者扱いするな!」


 誰のせいだ、誰の。
 不機嫌をあえて隠さず、態度と表情に押し出す。

 目の前の彼は気まずそうに眉根を寄せると、ドアを広く開けて壁際に身を寄せた。


「とりあえず上がれよ。ほら、荷物」

「…………お邪魔します」

「片手にスマホ構えんな。いつでも通報できる態勢作んな」