ぼそりと呟かれた言葉に嫌な予感がして、俺は反射的に声を上げた。


「まさか、父さんまでやめるとか言わないよな。こんなチャンス二度とないのに」


 父は本当に優秀だ。それくらい、俺にだって分かる。
 長年温め続けてきた夢を諦めて欲しくなかった。父の足枷にはなりたくなかったのだ。


「そうは言ったって……お前、一人になって大丈夫なのか? 料理どころか、家事はてんで駄目だろ」

「そんなんどうとでもなるし、するよ。たった半年だろ?」


 親子の討論が始まったところを、彼女に「まあまあ」と宥められる。


「そうねえ……一人になって大変なのは、私の方かも。家事はあの子に任せっきりだったから」

「偉いなあ、しっかりしてて」

「ふふ。しっかりしてても結構寂しがり屋なのよ。だからやっぱり可哀想だわ……女の子の一人暮らしなんて、何があるか分からないし」


 と、そこで父がはたと何かに気が付いたように固まった。


「……待てよ」


 ちょっと思ったんだけど、と前置いた父は、衝撃的な提案をしてのけたのだ。


「俺らがアメリカにいる間、一太と華ちゃんが一緒に住めばいいんじゃないか?」