そうですか、と軽く頷いて口を噤む。

 父と彼女が隣に並んで話している様子は、贔屓目なしにお似合いだった。
 大学で知り合い、当時は切磋琢磨し合う良き仲間だったそうだ。父が研究でアメリカに行くと聞き、彼女の方から連絡を取ったのだという。


「とうとうアメリカ進出かあって、感慨深くなったわよ。長年の夢だったものね」

「そうだな。まさかそっちのアメリカ行きと被るなんて思わなかったけど」

「あー……そうね、そのこと、なんだけど」


 途端に歯切れ悪くなった彼女に、父も俺も、思わず前のめりになった。


「私、その話は断ろうかと思って」

「それは――やっぱり、華ちゃんのことが?」


 華ちゃん。初めて聞いたその名前に、むず痒さを感じる。
 彼女は父の問いに「ええ」と眉尻を下げた。


「会社から話がきた日、あの子にも一応話してみたの。案の定、行ってくればいいって言ってくれたんだけど。流石に、一人残して行くわけにも……」

「預かってくれそうな人はいないの?」

「祖父母は亡くなっているし、親戚もね……預けるには遠すぎて」

「そうなのか……」


 父が思案顔で腕を組む。不意に視線を上げ、こちらをじっと見つめた。


「俺も、一太を置いて行くのは心もとなくてなあ……」