決して、どうでもいいというわけではなかった。
幼い頃から父の背中を追いかけていた俺は、自然と「研究員」に憧れを抱いた。本を読み耽り、気になったことは片っ端から気の済むまで調べ、集中し始めると誰かに声を掛けられても気付かないことがある。
両親が離婚した時、当然議題にあがったのは、どちらが俺を引き取るかということだった。
私が、いや俺が、と互いに譲らない二人。最終決定は、俺に委ねられた。
『俺は、父さんと暮らしたい』
正直にそう打ち明けた時、母が泣き崩れたのを今でも鮮明に覚えている。
どうして。あなたのことを見てきたのは私なのに。
混乱状態の母に涙声で詰られ、――この人は父さんの何を見ていたのだろう、と他人事のように思ってしまった。
研究者である父は確かにいつも自室にこもりがちで、家族揃って休日に出掛けた記憶は数えるくらいしかない。でもそれで俺が何か不満だったかといえば、そうではなかったのだ。
俺も父に似て部屋にこもり、時間を忘れて読書にのめり込むのが常だった。そこで気になることが出てくると、父の部屋に訪れてよく質問を投げた。
『なるほどなあ……その考え方はしたことがなかった。一太、お前俺より詳しいんじゃないか?』