「再婚しようと思うんだ」
話がある、と父に言われたのは、秋も深まってきた日のことだった。
大学で研究員として勤めている父は、来春アメリカに発つと言う。海外での活躍を望んでいた父にとって、それは非常に魅力的な話だったに違いない。
行けばいいじゃん。父のアメリカ行きについては、俺は寛容にそう返したところだった。
「俺は、父さんがしたいっていうならそれでいいと思う」
まあ相手に会ってみなければ何とも言えない、というのが正直な感想だが。
落ちた沈黙がやけに気まずくて、視線をさ迷わせる。
父はしばらくしてから、再び重い口を開いた。
「……相手の方にも、娘さんがいるんだ」
咄嗟には、声が出なかった。父が言いにくそうに続ける。
「その子は一太の一個下で……だから、」
妹ができることになる。そう結んで、父は目を伏せた。
今しがた告げられた事実を脳内で反芻する。だが不思議なことに、自分はさほど驚いていなかった。
「いいんじゃない?」
俺が言い放った途端、父が弾かれたように顔を上げる。
「いいって……そんな軽いことじゃないんだぞ。しっかり考えてから、」
「うん。ちゃんと会ってからまた考えるし、嫌だったら考えるけど。とりあえず、いいと思う」