息を呑む気配。果たしてそれはこの場にいる先輩のものだったか、通話口越しの母のものだったか。
「お母さん、結婚するの?」
「華……」
「全部聞いたよ。私は、先輩と暮らしたいって、思ったよ」
でももし、そう思わなかった時は?
先輩は自分のせいだと言って、二度と私と会ってくれなかったんだろうか。
「ちゃんと話して欲しかった。私だけ知らないで、先輩ばっかり頑張ってるの、全然嬉しくない」
私だけ仲間外れにされてる、なんて。そんな幼稚な駄々を捏ねている場合じゃなかった。
何にも知らずにのうのうと、私はこの数か月間暮らしていたんだ。先輩が自分の気持ちより先に、みんなの幸せを願っている間、ずっと。
「言ってよ……結婚なんて、そんなの、祝うに決まってるじゃん! 私だって、お母さんに幸せになって欲しいよ! 当たり前じゃん!」
水臭いよ。不安とか心配とか、ないわけないけどさ。でも、お母さんが幸せになるのをとめるわけないじゃんか。
他の人を押し退けてまで掴む幸せなんて、そんなのいらない。
「華……華、ごめんね……」
怒っているのか、泣いているのか、もうどっちつかずだった。
怒鳴る私に、母は声を震わせて告げる。
「……華は、一人がいいって、ずっと言ってたから、私……」