これは、笑うところなんだろうか。
 頬を引きつらせた私に、彼は少し眉尻を下げる。


「……そこで、だ。娘を一人にしたくない母親と、息子を一人にしたくない父親の利害が、一致した」


 それは、つまり。


「俺ら二人が一緒に暮らせば、解決するんじゃないかと、そういうことだよ」


 家事はできても女の子の一人暮らしは駄目、と母。一人で住むには差し支えないが下手したら死ぬぞ、と先輩の父。
 なるほど、確かに。「利害」は一致する。


「話は分かりました。……でも、先輩はよくそれで、私と暮らそうと思いましたね」


 流石に先輩の前で直接「男女の同居なんていかがわしいじゃないですか」とは言えないけども。オブラートに包んでそれとなく聞いてみる。

 と、彼はまた神妙な顔で黙り込んだ。
 今度は一体何だ。まだ言いにくいことでも隠し持っているのだろうか。


「……これは、ただの利害の一致じゃない」

「え?」


 やけに真剣な目つきで私を見据えた先輩が、一文字ずつ、丁寧に話す。


「華。お前は、今でも本当に、俺と暮らしたいと思うか」


 こんなに大人びた彼を見るのは、初めてだった。
 彼は今、真剣に、私に向き合っている。彼の覚悟を感じる。私も、きちんと答えなければいけないと思った。


「……そんなの、」