何だか冷たいな、というのが最初だった。
 瞼を持ち上げると白い天井が広がっていて、それを無感情に眺めていたところに、聞き馴染みのある声が落ちる。


「起きたか」


 視線を横に移せば、私の額から手を退けた彼と目が合う。たっぷり十秒経ってから、ようやく私は口を開いた。


「どうして先輩が、いるんですか」


 一週間前に出て行った、元同居人。
 もう戻って来ないはずだった。もうきっと、会えないはずだった。

 彼が目を伏せる。


「悪い。緊急事態だったから、お前の部屋に入った」

「……それは別に、いいですけど」


 私も入りましたし、とは流石に言えず、簡素に相槌を打つ。

 カーテンは閉じられ、蛍光灯が部屋の中を明るく照らしていた。最後の記憶が書斎の中だけれど、あの後は一体どうなったのだろうか。


「華。お前、ちゃんと飯は食ってたのか」

「……食べてましたよ」


 一人で食べるとあんまり箸が進まなくて、食欲もいまいちだったけれど。


「風呂は? ちゃんと浸かってたか? 髪乾かさずに寝てたんじゃないだろうな」