見てはいけない。入ってはいけない。駄目と言われたんだから、守らなくてはいけない。
分かっているのに、確かめずにはいられなかった。
おもむろに立ち上がった私を、チョコが戸惑ったように咎める。
「ちょ、ちょっと。どうしたの?」
自分の部屋を出て、真正面の聖域を眺めた。
ゆっくり足を踏み入れ、左右を見回す。どことなく既視感を覚え、その理由はすぐに見つかった。
「お母さんの部屋にそっくり……」
本がぎっちりと本棚に収まっているのもそう。ラインナップが洋書ばかりなのもそう。海外を舞台に働く人を彷彿とさせる、部屋の空気。
奥のデスクはきちんと整理がされていて、一冊の本が置かれているだけだった。その表紙に書かれている文字を目でなぞり、息が止まる。
『lonely lovers』
何で。どうして。なぜこの本がここにあるのか。
今は私が持っている、母の部屋にあった少し古い洋書。それよりは幾ばくか綺麗な装丁が、この本に対する持ち主の想いを物語っていた。
手に取ったのは無意識で。表紙を開いた瞬間、私は目を見張った。
「……なん、で」