食欲がない。とりあえず今は何も考えずに寝ていたい。

 掠れた声で返答した私に、チョコは眉根を寄せた。


「じゃあせめて何か飲んだ方がいいよ。とりあえず水持ってくるね」

「……ありがとう」


 部屋のドアを開けたままにして、チョコがつと振り返る。


「あ、ごめん。その前にちょっとトイレ借りていい?」


 声を出さずに彼女の問いに頷いた。
 ありがとー、と部屋を出て行くその背中をぼんやり見つめる。

 チョコが手を掛けたのは、私の部屋の真ん前。トイレはそこじゃないよ、隣。まともに回らない頭でそんなことを思った。
 本格的に意識が覚醒したのは、彼女がそのドアをすっかり開けてしまってからだ。


「待って、チョコ、そこは――」

『立ち入り禁止だ。絶対に開けるな』


 開け放たれたその先は、至って普通の部屋だった。書斎として機能していたのだろうか。とにかく本が詰まれている。


「あれ、ごめん! ここじゃなかったっけ。こっち?」


 一人で解決したらしい彼女に、返事をする余裕はなかった。
 倦怠感も何もかも消え失せ、ただただ自分の心音が内側で響いている。


「華?」