その日に直接言えなかったこと、面と向かって伝えるには気恥ずかしいこと。
紙の上にこっそり記したメッセージは、最初から昨日に至るまで、一枚残らず丁寧に保管されていた。
やっぱり、先輩は、全然意味の分からない人だ。
横暴で気持ち悪いと思った矢先に、変な優しさを剛速球で投げてくる。
『でも一太にとって山田さんがすごく大事っていうのは、分かった』
大事にされていた。間違いなく、そう思う。今ちゃんと分かった。
箱を元通りにして、部屋から出る。呑気に朝食を食べる気分になんてなれず、一人ソファに沈んだ。
もう、先輩には、会えないのだろうか。このまま母が帰国して、また何事もなかったように私は暮らしていくんだろうか。彼は一体、この先どうするのだろう。
学校が同じというのがせめてもの救いだけれど、家出するくらいだ。会いに行ったところで、今までのように接してくれるかは分からない。そしてその学校も、あと一週間ほどで夏休みだ。
『今は、お互い距離を置いた方がいいと思う。一太のことはしばらく、そっとしておいて欲しい』
しばらくって、いつまで? その後は私、どうしたらいいの?
湧き出てくる疑問。答えてくれる人がいないのは明白だったから、口には出さなかった。