読んでいる最中、呼吸をしていなかったと思う。最後の行まで目を通した刹那、苦しくて、鼻の奥がつんとした。

 ああ――私、本当にとんでもない間違え方をしてしまった。

 たった一言の重みをこんなに実感したのは、初めてだ。

 だって、分かっていたじゃない。別段安定しているわけでもない、奇妙な関係の私たちがこれまで一緒に暮らすことができていたのは、お互いが「好き」という感情を抱かなかったからだ。

 最初に決めた同居のルールなんて比じゃない。私はタブーを犯した。一番のルール違反者は私じゃないか――。

 猛烈な後悔と自己嫌悪に苛まれながら、先輩が残していった手紙の文字を指でなぞる。

 ふらふらと吸い込まれるようにテーブルを離れて、彼の部屋のドアを開けた。当然、誰もいない。それでも部屋の中はほとんど変わりなかった。彼は今ちょっと出かけているだけで、またここに戻ってくるのではないか。そう思ってしまうほど。

 そこに足を踏み入れる。私はまた一つ、タブーを犯そうとしていた。


『一つ。お互いの部屋には立ち入らないこと』